徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)11月11日 月曜日 徳洲新聞 NO.1466 1面
喜界徳洲会病院(鹿児島県、89床)は12月1日、直線距離で東南に約1km離れた高台に新築移転オープンする。建物の老朽化にともなう療養環境や職場環境の改善、診療機能の向上が建て替えの理由。徳洲会の離島病院では、沖永良部徳洲会病院(同)に次ぐ新築移転となる。島で唯一の病院として、島で完結できる医療を増やし、災害時に拠点となる病院を目指す。また、生涯にわたる患者さんとの関係づくりを築くため、介護部門とも強固に連携し、トータルケアに大きく貢献していく。
地上3階建てで台風に強い設計。高台への移転なので津波被害も軽減「結いのひろば」と命名したエントランスホール奥の壁は一面スクリーンになる問診ブースからすべての外来を見渡せる機能的な配置透析室は17床に増やし1床当たりのスペースが拡大
新病院は地上3階建て、敷地面積は約1万6,369㎡、延床面積は約8,980㎡。現病院では駐車場が4カ所に分かれているが、新病院は患者さん用と職員用を合わせて敷地内に収まる広さ。現病院は海抜約7mに位置しているが、新病院は海抜約20mの高台に移転。津波の被害を最小限に抑えることが可能だ。また、高台に移転したことで、患者さんが通院しにくくならないように、バスの路線を延ばすため喜界町やバス会社と交渉し、敷地内にバス停を設けた。
建物を3層に抑え、正方形の平面形状とすることで、四方からの風に耐え、海からの強い潮風も受け流す形状とした。台風などの際に、暴風雨の建物内への侵入を防ぐため、玄関の風除室を二重に設置。また、強い日射しから建物を守るため、建物周囲の軒先を深くし、やわらかな光を室内に取り込めるように工夫した。
災害時のインフラ対策も盤石で、自家発電設備を屋内に格納し、軟水器の設置や3日分の食料も備蓄している。島で唯一の病院として、有事の際に地域の方々に安心してもらえるように、台風や災害に強い病院に機能強化を果たした。
1階エントランスホールは建物中央に位置し、「結いのひろば」と命名。ここから外来や各診療部門の窓口を見渡すことができ、誰もがわかりやすいワンフロアの空間を実現。壁一面のスクリーンに映像を流すことができ、待ち時間に健康情報の動画を見てもらうことで、予防医学への意識醸成にも努める。
救急外来には、発熱患者さん用の出入り口を設置。その先には感染診察室(陰圧室)を完備し、感染対策を強化した。また、現病院では4階にある通所リハビリテーション室を1階に移動し、専用の出入り口を設けたため、利用者さんの利便性も高まった。
エレベーターは2基から3基に増やし、混雑緩和に寄与。病棟(一般病棟40床、医療療養病棟49床)は、現病院では3階と4階にまたがっているが、新病院では2階のワンフロアに集約した。スタッフステーションを4カ所に配置したことにより、状況に応じて4ユニットの分割管理にも対応可能。また同院では、一般病棟での治療後、医療療養病棟に移動する患者さんも多いが、同フロア内での移動になるため、患者さんの療養環境の変化を最小限に抑えることができる。
新たに陰圧室の個室を2部屋つくり、感染対策を強化。家族宿泊室も完備し、患者さんの急変時などに家族が寄り添える環境を整備した。また、更衣室や視力聴力検査室とつながる健診待合室も新設し、健康診断を受けやすい環境と動線を確保した。
3階の透析室は現病院の15床から17床に拡大(1床は個室)。台風などで患者さんの通院が制限され、透析を受ける時間帯が集中しても対応できる。また、1床当たりのスペースが広くなり、患者さんのプライベート感の確保に加え、スタッフの動きやすさも実現した。
リハビリテーション室は、屋外にも出られる開放的なつくりとなった。また、保育室からも屋外の園庭に出ることができ、保育環境が向上。手術室は1室のみだが、手術台や無影灯などを一新、家族控え室も新しく用意した。
医療機器では、現病院からCT(コンピュータ断層撮影)装置を移設。移転直前に台風の影響で故障した1.5テスラのMRI(磁気共鳴画像診断装置)は機能アップして更新。X線透視撮影装置も導入し、名瀬徳洲会病院(鹿児島県)の守屋壮志・循環器内科医師の協力の下、新たにシャントPTA(経皮的血管形成術)を実施する計画だ。これは先端にバルーンの付いたカテーテルで、シャント(透析用に動脈と静脈をつないだ血管)内の狭窄部をふくらませる治療。これまでは島外での治療を余儀なくされていたが、島内で完結できるようになる。
また、院内に介護センターや訪問看護室を設置。患者さんのトータルケアに寄与する。
小林奏院長
現病院は老朽化が激しく、患者さんにも職員にも不便をかけていました。新病院では療養環境が大幅にアップ、医局には新たに当直室ができ、研修医の先生方にも喜んでもらえると思います。また、新たにシャントPTAを実施する計画です。これからも島で完結できる医療を増やしていきたいです。
島民の方への予防医学の普及にも力を入れていきます。症状が出てから来院すると、がん末期の状態で発見されることが多いのが現状です。早期発見、早期治療という医療本来のスタイルを実現するため、当院で健康診断を受けてもらえるように周知していきます。島の方の基礎データの蓄積は、救急搬送された際にも活用できるため重要なことです。これからも島で唯一の病院として、地域に貢献していきます。
清富子・看護部長
現病院でふたつの階に分かれていた病棟がワンフロアに集約され、看護師同士の連携も取りやすくなります。一般病棟から医療療養病棟に移った患者さんも、同じフロアに見知った顔の看護師がいると、安心すると思います。新病院の病棟は廊下が広くなり、トイレが増え、バリアフリーになるので、療養環境・職場環境ともに改善されます。また、スマートフォンを導入し、ナースコールや見守りカメラと連動させます。看護師の負担を減らし、より手厚いケアを実現させていきたいです。
新病院は災害に強いのが特徴です。近隣には町役場や町立中学校があり、そこが災害時の避難所になった場合も、近くに病院があると安心できると思います。地域に優しく寄り添い、頼りにされる病院を目指していきます。
泉陽一事務長
本来ならバスの路線は、病院の手前にある町役場が終点でしたが、病院敷地内まで延ばしてもらうようにお願いしました。また、現病院では4カ所に分かれている駐車場が、新病院では敷地内で完結し広くなりますので、利便性は高くなると考えます。
当院はグループ病院からの応援で成り立っていますが、新病院になり、お迎えするにも良い環境が整備できたと思います。島で唯一の病院としての責任をもち、グループの力を借りながら、島民の方々が安心できる病院を目指します。病院の機能はアップしますが、それを生かしていくことが重要です。予防を含めた医療の提供に加え、介護部門の維持・発展のために、職員一同、身を引き締めて努力していきます。