徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)08月05日 月曜日 徳洲新聞 NO.1452 4面
東京西徳洲会病院はXR技術を活用したERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)3D画像アシストシステムを導入した。XRはExtended Realityの略。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、複合現実(MR)など情報技術の総称で、現実世界と仮想世界の融合を意味する。同システムは、画像診断装置で得た胆管・膵管の画像情報をコンピュータ処理し、VR用のヘッドマウントディスプレイ上に3Dホログラムとして投影するというもの。正確な胆管の解剖把握に寄与し、より安全なERCP手技実施への貢献が期待できる。東京・多摩地区で同システム導入は初、またERCPへのXR技術活用は徳洲会グループ初の試みだ。
新技術を導入しながら地域医療に貢献する内視鏡センターのスタッフ(後列右から4人目が山本部長)
同システムを導入したのは内視鏡センター。医療用画像処理ソフトウェア「Holoeyes MD」を中心としたシステムで、画像診断装置から得た画像情報をもとに構築した3Dホログラムを、ヘッドマウントディスプレイ上に投影できる。
同院は透過型のヘッドマウントディスプレイ(視界を遮らないメガネ型のディスプレイで、実際の現実空間に3Dホログラムを重ねて表示できる)を採用し、3Dホログラムと透視画像、内視鏡画像を同一視野に収めたままERCPの手技を行うことができる仕組みを整備した。治療前のシミュレーションや術中に表示し活用している。
ERCPは、口から入れた内視鏡を十二指腸まで進め、先端からガイドワイヤーやカテーテルを出して胆管や膵管に挿入し、造影剤を注入して状態を詳しく調べる検査。がんや結石の診断、黄疸の治療(胆道ドレナージ=溜まった胆汁の排出)などを行う際に実施する。
ヘッドマウントディスプレイ上のホログラムはモニターに映し他のスタッフと共有可能
同院の山本龍一・肝胆膵内科部長兼内視鏡センター長兼消化器病センター長は「佐藤一彦院長および外科の先生方のご尽力により、導入することができました。従来のERCPの手技はX線透視下で2次元の画像を用いて実施していましたが、2次元であるため手技を行う医師が頭の中で解剖図をイメージしながら行っていました。当然ですが平面のモニターには奥行きがなく、臓器の裏側を確認することができません。そのため、正確な胆管の解剖把握には限界がありました。今回、3D画像アシストシステムを導入したことで、個人差のある胆管の走行や分岐まで立体的に把握することができるようになりました。まさに『目の前に答えがある』という感覚で、より正確で安全なERCP手技の実施に有用なシステムと考えます」とアピールする。
導入のきっかけは、「Holoeyes MD」を先行導入し外科領域で約2年間活用してきた名古屋徳洲会総合病院の高山悟・副院長兼消化器外科部長からの紹介。山本部長は昨年10月に試験導入し、日常診療への有用性を確認した。ただし、ERCPへの「Holoeyes MD」の使用事例はそれまで全国でなかったため、山本部長は画像の構築方法など検討、調整を繰り返し、約半年かけて現在の仕組みをつくり上げた。
術者からは写真のように仮想空間上にホログラムが浮かんで見える
当初は非透過型のヘッドマウントディスプレイを使用していたが、効率性を考慮して、この6月に透過型ヘッドマウントディスプレイを導入した。
3Dホログラムは、DIC-CT検査の画像データをもとに構築している。同検査は、点滴静注胆嚢胆管造影法(Drip Infusion Cholecystocholangiography)とCT検査を組み合わせた検査。同検査の画像データがあれば、1時間ほどで3Dホログラムを作成できる。
術者がヘッドマウントディスプレイを通じて見ている3Dホログラムは、モニターにも表示することが可能であるため、診療放射線技師らとの共有が可能。円滑な手技の進行にも寄与する。若手医師への指導を行う際にも有効と見られ、教育的効果も期待できる。
ヘッドマウントディスプレイ上に表示される3Dホログラムは、目の前の仮想空間に浮かぶように表示され、手を伸ばして疑似的に触れることで、動かしたり、向きを変えたり、大きさを変えたりすることができる。実際にある物体を触れるわけではないため、清潔を保持したまま操作できるのも特徴だ。
「治療の実施前に、『胆管のこの分枝にカテーテルを入れていこう』などとプランを立てシミュレーションを行うことができます。また、肝門部に狭窄が生じている胆管がんで、胆道ドレナージを行う必要があるものの、ガイドワイヤーを進めることに難渋する症例などの場合に、ガイドワイヤーを進める最適な胆管の分枝を選択するため、3Dホログラムを術中表示して活用することもできます。胆管がんに対するERCP手技の成功率は全国平均で90~95%と言われています。3D画像アシストシステムを用いることで、成功率の向上が期待できます」(山本部長)
山本部長は得られた知見を広く医学会で共有するため、10月31日から4日間、兵庫県神戸市で開催されるJDDW2024(第32回日本消化器関連学会週間)に、ERCPへのXR技術の活用をテーマにした演題を応募。同演題は採択され発表を行うことが決まっている。「ご興味のある先生がいましたら、ぜひ当院へ見学にお越しください」と呼びかけている。