徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)02月05日 月曜日 徳洲新聞 NO.1426 4面
【続報】能登半島地震の発生から約1カ月が経過したが、被災地では依然として断水が続くなど厳しい避難生活を強いられている。石川県輪島市で支援活動中のNPO法人TMAT(徳洲会医療救援隊)は、現地の医療・介護提供体制の本格的回復に時間を要していることなどから、輪島市保健医療福祉調整本部からの要請を受け、2月中旬まで活動期間の延長を決定。これまでに(2月2日時点)先遣隊4班、本隊第1陣~6陣、臨時チームを含め延べ69人を派遣、被災者の方々に寄り添った支援に全力を尽くしている。
ふれあい健康センターを訪れた避難者の方たちを診察
2月中旬まで途切れることなく派遣継続を決定(写真は第3陣と第4陣)
「どうですか、熱感などふだんと変わったことはありますか」、「日頃処方してもらっているお薬はありますか」――。発災から約3週間が経過した1月22日、輪島市の指定避難所「輪島市ふれあい健康センター」で、岸和田徳洲会病院(大阪府)の西山裕也薬剤師が避難者の方に優しく話しかけた。西山薬剤師は1月18日から24日まで活動した第3陣メンバー(6人)のひとりだ。
この避難者は、高齢の両親と子ども(成人男性)の3人家族で、指定避難所となっている市立輪島中学校の体育館で避難生活を送っていた。地震による影響で体育館の壁が一部崩落するなどして不安を感じたことから、この日、1km以上離れた同センターに徒歩で移動してきた。
「脈が少し早いですね。歩いてきたからかな」。西山薬剤師はコミュニケーションを取りながら3人に問診を行い、バイタル(生命徴候)を測定。第3陣のチームリーダーである福岡徳洲会病院の鈴木裕之・救急センター長が3人の状態を確認したうえで、同センター2階の避難所へ入ることを提案した。3人とも体調は安定しており、父親を除くふたりが定期的に服用している薬があったものの、しばらく服用する分の薬は持参していた。
「経験則では発災から3週間ほど経つ頃には地域の医療機関などに引き継ぎ、支援団体は撤収する時期を迎えますが、地元の診療所の再開が一部にとどまっていたり、介護施設も大きな被害を受けていたり、上下水道の復旧に時間がかかっていて物流も滞っています。もともと高齢の方々が多い地域であるため、避難生活中の急変も多く、人手が足りず被災地支援が必要なフェーズが続いています」(鈴木センター長)
力を合わせて段ボールベッドを設置(22日、2階避難所)
ADL低下など健康不安のある3階の避難者を1階に車いすで移動
輪島市保健医療福祉調整本部で各地の医療福祉ニーズなど基に支援を協議
設置した食事用テーブルがコミュニケーションの場に
ふれあい健康センターは3階建ての公共施設で、TMATが担当している1階の避難所は、要介護高齢者など支援を必要とする避難者を受け入れる実質的な福祉避難所となっている。2階、3階はほぼADL(日常生活動作)自立の方々が入る一般の避難所という位置付けだ。
TMATは1月4日から1階に仮設診療所を開設して地域の医療ニーズに応える外来診療を行うとともに、2、3階を含めた避難所内の診療を行ってきた(地域の一部診療所が再開していることなどから仮設診療所による外来診療は1月末で終了)。
同センター内での処置が難しい急変が発生した場合には、基幹病院である市立輪島病院に搬送して対応。感染症発症時にはフロアごとにゾーニング(区分け)を行い拡大防止に注力している。
避難所運営は多くの支援団体と協働し、診療再開した地域医療機関「ごちゃまるクリニック」の小浦友行院長が1月下旬から避難所内の体調不良者への往診を実施するなど緊密に連携している。1月22日時点での避難者は約150人に上り、1月末時点でも100人以上が身を寄せている。
1階避難所は高齢の避難者が多く、既往症のある方やADLが低い方、要介護の方、その他体調面で不安のある方が生活している。ふだんのケアやさまざまな介助に加え、体調悪化に備えてTMAT看護師が常駐。夜間も他団体の協力を得て2人夜勤体制を継続し、さながら“病棟”の様相を呈している。
実際に急変事例も少なくない。たとえば、コロナ陽性で2階の感染隔離室にいた避難者の方は血中酸素飽和度(SpO₂)が低下、心不全の既往がある1階のコロナ陽性者はSpO₂低下に加え意識障害と血圧低下など同様の症状による搬送が多い。総じて感染症を含む呼吸器系の疾患や循環動態の悪化(高血圧など)、その他の慢性疾患の増悪などが見られる。日中の時間帯だけでも日に4~5件の救急搬送を行うこともまれではない。2、3階の避難者のなかにも急変予備軍が含まれているため気が抜けない状況が続く。
とくに、感染症を発症した要介護の避難者を受け入れられる避難所は限られているため、同センターが果たす役割が大きくなっている。加えて、大規模な避難所となっている学校などは授業再開の動きがあり、今後、避難所の集約が想定される。そうしたなかで心配されるのが要支援者の行き先だ。
医療・介護的な評価とケアが必要な場合、一般の避難所では対応が難しく、ケア体制が構築されている同センターは当面、こうした方々を受け入れる重要な避難所であり続ける。1.5次避難や2次避難も思うように進んでいない。これらさまざまな要因が重なり、長期的な支援が必要となっている。
他機関との連携を含め引き継ぎをスムーズに行うため、福岡病院の川添陽介・看護主任をチームリーダーとする第4陣8人が22日に合流、28日まで活動した。さらに村山弘之・成田富里徳洲会病院(千葉県)副院長をチームリーダーとする第5陣9人が26日から31日まで、福岡病院の荒木伴宏・看護師長をチームリーダーとする第6陣6人が30日に合流し活動している。