徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)10月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1412 1面
中部徳洲会病院(沖縄県)は経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を開始した。TAVIは重症大動脈弁狭窄症(AS)のうち、高齢者や体力的に外科手術の実施が困難な患者さんに行う低侵襲な治療法。同院は9月14日に1例目を行い、奏功した。TAVI実施施設は10月中旬時点で全国に225施設あり、沖縄県では3施設目、徳洲会グループでは8施設目となる。
「若手医師の育成にも生かしていきたい」と山城副院長
加齢にともなう病気として弁膜症(心臓の弁が正常に機能しなくなる病気)が増えており、このうち80歳以上ではASの割合が高くなる。これまで中部徳洲会病院では、症状のあるASには基本的に手術で対応し、高齢者や体力的に手術の実施が困難な患者さんはTAVIができる施設に送っていた。
山城聡副院長は「当院では小開胸で行うMICS(低侵襲心臓手術)を実施していますが、新たな低侵襲治療としてTAVIを導入し、循環器内科も弁膜症に対し治療介入できるようになりました。当院の循環器医療のさらなる底上げを図り、若手医師の育成にも生かしていきたい」と強調する。
「今後もチームが一体感をもって取り組みます」と比嘉部長
TAVI実施施設の認定を取得するには、高いハードルをクリアする必要がある。手術実績では「大動脈弁置換術(大動脈基部置換術を含む)が年間20例以上」、「冠動脈に関する血管内治療(PCI)が年間100例以上」など、設備機器として「開心術が可能な手術室で設置型透視装置を備えている(ハイブリッド手術室)」、「術中経食道心エコー検査が実施可能」、人員体制として「心臓血管外科専門医(常勤)が3人以上在籍」、「循環器専門医(常勤)が3人以上在籍」などがある。
「1例目が終わり大きな一歩を踏み出しました」と早川医長
同院では、山城副院長を中心に約1年半前から準備を開始、施設基準に必要な要件を一つひとつクリアし、6月に施設認定を取得した。この間、昨年11月に多職種によるハートチームを結成。新型コロナ禍ということもあり、TAVI実施施設の見学はチームメンバー全員で訪れることはかなわなかったが、数回に分けて県内で施設見学し、病院に戻ってから共有。チーム内の役割分担を明確にし、それぞれ理解し合うことで連携を深めていった。
TAVIの対象として①高齢者(おおむね80歳以上が目安)、②大動脈の高度な石灰化がある、③胸部に対する外科手術の既往がある、④冠動脈バイパス手術の既往がある、⑤頸動脈狭窄や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝硬変などの合併症がある――など、いずれかに該当するケースで検討。
同院では、基本的に心臓血管外科が弁膜症患者さんの窓口になり、TAVIの適応と考えられる患者さんについては、ハートチームで協議して判断する。1例目は9月14日に実施。鹿児島県の沖永良部島から訪れた80代女性で、もともと同院の医師が沖永良部徳洲会病院に応援に行った際に診ていた患者さんだった。患者さんは術後2週間で退院、その後は沖永良部病院で予後を診ている。主術者は比嘉健一郎・循環器内科部長が担当。1例目を終え、「TAVIにより症状が軽快し、人生が変わる様子を見て、やりがいを感じました」と感無量。「TAVIは多職種によるチームアプローチを必要としますが、当院はもともと職種間の垣根が低く、協力し合える雰囲気をもっていました。今後もチーム全体で目標を設定しながら、一体感をもって取り組んでいきたい」と意気込みを話す。
TAVIの1例目の様子
第1助手を務めた早川真人・心臓血管外科医長は「1例目は緊張感があり、大きな一歩を踏み出したと感じています。ゆくゆくは私も主術者を務めることになりますので、それまでは広い視野で全体の流れを見る役割を担いたいと思います」と意欲的。「今後、世の中のニーズは低侵襲治療が中心になり、外科医に求められる役割も変わってくると考えます。時代の流れに乗り遅れないように精進します」と目標を示す。
今後はコンスタントに症例を重ねられるように、広報に注力していく。山城副院長は「心臓血管外科と循環器内科のどちらかが主体にはならず、協力し合うことで相乗効果を生み出し、つねにお互い切磋琢磨していきます」と意欲を見せる。
重症大動脈弁狭窄症(AS)の治療として、2013年に保険適用となった。ASは心臓の左心室と大動脈の間にある大動脈弁の動きが悪くなる疾患。左心室は全身に血液を送り出す重要なポンプ機能を果たしており、ASを発症すると血液を十分に送り出すことが難しくなる。病態が進行すると胸痛、失神、労作時の息苦しさ、動悸などの症状を引き起こし、時に突然死を招くことがある。重症ASのうち、高齢で体力が低下していたり、肺疾患やその他の疾患を抱えていたりすると外科手術が困難な場合があり、TAVIの対象となる。TAVIは先端に折りたたんだ人工弁が付いたカテーテルを、足の付け根の血管もしくは肋骨の間から挿入し、硬くなった大動脈弁の内側から人工弁を広げ、押し付ける形で留置。手術創が小さく人工心肺装置を用いる必要もないため、低侵襲で体への負担が小さいのが特徴だ。