徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2023年(令和5年)09月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1408 1面

渡航移植の実態調査から
垣間見えた注目すべき点
小川・宇和島病院泌尿器科部長
特別寄稿

約20年前、海外渡航移植患者さんの予後が不良と指摘され、我が国の移植医療を改善するために、厚生労働省と移植関連学会が協力し、渡航患者さんの実態調査を実施した。国内の心臓移植関連17施設、肝移植関連123施設、腎移植関連154施設を調べたところ、心臓移植103人の渡航先は米国(85人)が中心で、肝移植221人は米国(42人)や中国(14人)、腎移植198人は中国(106人)やフィリピン(30人)が多く、これら3臓器の移植渡航先は16カ国を上回ることがわかった。また、渡航移植患者さんは増加傾向とされたが、斡旋・紹介の有無への回答は少なく、詳細は不明で、調査目的であった移植患者さんの予後に関しても不明だった。

2023年になり、海外での臓器移植を希望する患者さんに対する臓器提供を、厚労相の許可を受けず斡旋したとして、2月にNPO法人の理事が臓器移植法違反の容疑で逮捕された事件を受け、厚労省研究班が移植関連学会を通じ、渡航移植患者さんに関する緊急実態調査を実施した。診療科203科を対象に調べたところ、3月31日時点で国内医療機関に外来通院している渡航移植患者さんは543人。内訳は腎臓250人、心臓148人、肝臓143人、肺2人だった。移植渡航先は主に米国(227人)、中国(175人)、オーストラリア(41人)、その他22カ国。渡航移植仲介団体が介在した事例は25人だった。

今回の調査結果で注目すべき点は、①診療科111科(腎臓71科、肝臓29科、心臓9科、肺2科)に543人が外来通院。全国で多くの渡航移植患者さんが、診療を拒否されず受療している、②渡航先は米国が最も多く、中国、オーストラリア、その他22か国。08年の国際移植学会で採択されたイスタンブール宣言は、「移植ツーリズム」を禁止すべきという方針を打ち出しているが、法的な拘束力はなく、現状を顧みるに国境を越えた移植に関する倫理的な指針と、安全かつ公正な移植を促進するためにあるように思える、③仲介団体が介在した事例は25人と少なかったが、複数あるこれら団体の実態は把握できず、厚労省の許可を得て斡旋しているかも不明、④過去5年間で渡航移植後、国内医療機関に通院中に亡くなった患者さんは38人、移植した臓器が機能不全になった患者さんは25人。統計解析はされていないようで、渡航移植の予後が悪いとの結論は出ていない、⑤臓器移植に係る海外療養費の取り扱いについて、健康保険法による渡航移植の支援と推進も期待されているが、その実績に関する報告はない。また最近、重症の心臓病を患い心臓移植のために5億3,000万円の寄付を募り、米国に渡った1歳女児の手術が無事に成功したとの報道があった。渡航移植に多くの方々が賛同し、多額の寄付が集まったことは注視すべき。

厚労省は今回の調査結果から、「国内での臓器提供・移植がより一層推進されるよう国民への啓発や移植医療の体制強化を進めたい」としており、今後、渡航移植に対する積極的な施策策定を期待したい。

宇和島徳洲会病院泌尿器科 小川由英

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