徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)09月04日 月曜日 徳洲新聞 NO.1405 4面
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は県内の湘南ヘルスイノベーションパーク(略称:湘南アイパーク)で同院の一部門である「湘南先端医学研究所」の全体ミーティングを初めて開いた。4月に同研究所の体制や院内での位置付けが整備されたことをふまえ、所属研究員や部門間の相互理解を促すのが狙い。ミーティングでは再生医療開発研究部、がん医療研究部、放射線医学研究部、一般基礎医学研究部の4部門が、それぞれ取り組んでいる研究活動の概要を紹介し、交流を深めた。
ミーティングの意義を強調し参加者にエールを送る小林院長
湘南先端医学研究所は、湘南鎌倉病院が院内に設けている研究部門のひとつ。ライフサイエンス研究施設として多くの研究者が集う湘南アイパークの一角を拠点とし、主に基礎医学研究を行っている。同院の臨床研究センター同様、文部科学省から研究機関の指定も受けている。所長は同院の小林修三院長。
発足は2019年。神奈川県の藤沢市村岡・ 鎌倉市深沢地区に「ヘルスイノベーション最先端拠点」の形成を目指す覚書を、同院、湘南アイパーク、神奈川県、藤沢市、鎌倉市の5者で交わしたことを契機に、臨床研究センター内の位置付けでスタートした。
同じ研究所の仲間として各プレゼンに聞き入る参加者
しかし、研究所の体制が曖昧になっていたことなどから、所属する研究員や事務職員の名簿を確定させるとともに、病院組織図に明記するなど体制を整え、今年3月に同センターから独立、あらためて全体ミーティングを行うことにした。同研究所の平田昌浩・事務室長は「研究部門が増え、活動が拡大していくなかで、きちんと体制を整備しようと、小林院長が判断しました。同じ研究所の仲間として互いを知る機会を設けることにしました」と説明する。
ミーティングは7月27日に開催。再生医療開発研究部、がん医療研究部、放射線医学研究部、一般基礎医学研究部の4部門が、それぞれ研究活動の概要をプレゼンした。
自院の加速器型BNCTシステムを紹介する鈴木研究員
このうち、再生医療開発研究部は浅原孝之・副所長兼部長(湘南鎌倉病院予防医学センター未病治療診断科部長)が「再生医療研究」、「健康医学研究」、「先端医学研究」、「医療支援研究」の4つのカテゴリーで研究を進めていることを紹介、概要を説明した。その後、再生医療研究で大竹剛靖・主任研究員(同副院長)が腎臓領域の再生治療開発、先端医学研究でAmankeldi Salybekove主席研究員がエクソゾーム治療開発、Junjie Yang主任研究員がRNA(リボ核酸)治療開発の研究について発表した。
がん医療研究部は、がん関連で4つ、肝臓関連でふたつのテーマで研究を進めていることを報告。まず野口雅之・主席研究員が登壇し、がん関連のふたつのプロジェクトについて説明した。ひとつはEGFR遺伝子の変異に着目し、日本で頻度の高い肺腺がんの細胞発生を解析する取り組み。もうひとつは腺腫内腺がんを利用し、腺腫と腺がんを別々に採取、網羅的エクソームシーケンスすることで、がん化に重要なゲノム(全遺伝情報)異常を解析する研究を紹介した。
その後、新津洋司郎部長(介護老人保健施設かまくら施設長)が登壇。がん関連では、がん組織に生育する血管を傷害する薬に言及し、しばしば副作用が問題になることから、従来の治療薬とは異なるメカニズムをベースに、副作用の少ない新規血管新生阻害薬の開発に取り組んでいることを示した。
また、がん原遺伝子(潜在的にがん遺伝子になり得る性質をもつ遺伝子)に対する分子標的治療薬について、最近、投与期間中に耐性が生じ、がん腫が再増殖することが明らかになりつつある点を指摘。耐性を克服する薬剤の開発に取り組んでおり、開発めどが立ちつつあることを報告した。
肝臓関連では、自ら開発した肝硬変治療薬と、まったく異なる原理で低分子治療薬の開発を目指す研究と、肝臓と膵臓を用いた臓器の再生メカニズムに関する研究を紹介した。
放射線医学研究部は3人が登壇。村井太郎・主任研究員(同放射線腫瘍科部長)が「患者由来の腫瘍組織移植モデルと有精鶏卵を用いた中性子補捉療法の開発」と題し発表。病院設置型BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)では動物実験が困難なため、患者さん由来の腫瘍組織を有精鶏卵に移植してBNCTの効果を予測する「有精鶏卵モデル」の開発状況を報告した。
冨吉勝美・主任研究員(同サイクロトロン)は、BNCTで治療・診断する際、腫瘍組織にボロン(10B)を運ぶ新薬剤の合成について紹介。現在、使用している薬剤よりも患者さんの負担が少ない可能性を示唆した。がん治療用α線核種標識薬剤開発研究についても報告した。鈴木俊介研究員(同医学物理室)は自院で導入した加速器型BNCTシステムを紹介し、実施した性能初期評価を報告した。
一般基礎医学研究部は、宮﨑徹部長が自ら代表理事を務めるAIM医学研究所でのAIM(apop-tosis inhibitor of macrophage)に関する研究活動を紹介。「AIMは病気の原因になるような体内の“ゴミ”を掃除するために欠かせないタンパク質」とし、猫は先天的にAIMがうまく働かず、腎臓にゴミがたまって慢性的な炎症が生じることを突き止めた。猫の腎臓病を防ぐため猫用AIM薬の開発、また人への応用を目指した研究も進めている。
最後に小林院長が挨拶。「研究分野は違っても、ひとつの研究所で共に研究活動を行っていることを理解し、刺激になったと思います。いずれ患者さんの役に必ず立つという強い思いで邁進してください」とエールを送った。
國田香菜・事務室職員は「先生方から『非常に良い会だった』との感想をいただきました」と笑顔。平田室長も「早速、共同で研究を行う話も出ています」と明かし、「病院の研究所ですから、研究成果を短期間で患者さんに還元できるようにしたい」と意欲的だ。