徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2023年(令和5年)08月21日 月曜日 徳洲新聞 NO.1403 1面

徳之島病院
在宅緩和ケアを積極推進
「アウトリーチチーム」と協力

徳之島徳洲会病院(鹿児島県)は、徳洲会以外の緩和医療専門医が参加する「徳之島緩和ケアアウトリーチチーム」の協力の下、在宅緩和ケアの提供に取り組んでいる。アウトリーチとは対象者のいる場所に直接出向いて支援することを意味し、同チームの医師が毎月1回、同院を訪問、在宅緩和ケアが円滑に提供できるようサポートする。これによりアドバンスケアプランニング(前もって自分が望む医療やケアについて家族や医療者らと話し合う取り組み)を的確に行え、同院の在宅看取り数が増加するとともにスタッフのスキルアップにもつながっている。

在宅看取り数が4年間で3倍超

「緩和ケアを徳之島に根付かせたい」と田上院長(左)と田畑看護師 難病患者さんのカンファレンス。身体変化予測などから支援内容を調整

「入院時よりも血小板の数値は良くなってきています。患者さんご本人もつらくなさそうですので、ご自宅に帰してあげられればと考えています」

徳之島病院の会議室で、患者さんの家族に優しく語りかけるのは、徳之島緩和ケアアウトリーチチームリーダーの田上恵太やまと在宅診療所登米(宮城県)院長兼東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野講師(緩和医療専門医)。家族から食事の内容や排泄ケアの方法など質問が寄せられると、今度は同席している徳之島病院の緩和ケアチーム(医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーら)が丁寧に回答。

話し合いの末、患者さんの退院が翌日に決まった直後、田上院長の「不安でしたら、退院の翌日にご自宅に訪問します」という言葉に、家族は安堵の表情を浮かべた――。

これは、取材で同院を訪れた日の退院前カンファレンスの一場面だ。患者さんは末期がんの高齢者。4日前に入院となったが、看取りが近付いており、「自宅に帰りたい」という患者さんの希望や、在宅での対応体制が整っていることから、在宅緩和ケアを行い患者さんが自宅で最期を迎えられるようにすることを、出席者一同が確認した。

アウトリーチチームは徳洲会グループ外の緩和医療専門医で構成。2019年に田上院長が立ち上げ、現在、11人が所属している。毎月1回、ローテーションで徳之島を訪れ、2~5日間滞在。病棟診察やカンファレンスへの参加、終末期の患者さん宅での訪問診療を通じ、徳之島病院が緩和ケアをスムーズに提供できるよう支援している。

その一環で同院の緩和ケアチームを中心にスタッフ教育にも注力。月1回の緩和ケア勉強会や緩和ケアに用いる医薬品、医療機器の使い方の指導、アドバンスケアプランニングの方法、デスカンファレンス(看取り後の振り返りの会議)の実施などに加え、島内に不在時もメールなどで相談できる環境を整えている。

「アウトリーチチームの医師は診療するだけでなく、徳之島病院の緩和ケアに携わる医療者を育てるという意識をもっています」と田上院長。緩和ケアチームの一員で訪問看護を行う田畑幸利看護師も「アウトリーチチームの医師から現場で教わることで、緩和ケアに対する理解が深まり、患者さんが過ごしたい場所で、穏やかに過ごせるお手伝いができるようになりました」と手ごたえを口にする。

徳洲会外の専門医を尊重し 協働する徳洲会に対し謝意

きっかけは、同院の田代篤史・副院長兼循環器内科部長が、研修医の頃に同期だった田上院長に声をかけたことに端を発する。田代副院長は「自宅で最期を迎えることを望む方が多い地域特性から、在宅緩和ケアのニーズが以前からありました。しかし、当院に緩和ケアのスペシャリストはいないため、専門医の田上院長に定期的に島で診療してもらいたいと依頼しました」と振り返る。田上院長も「全国には、年に数日でも離島医療に協力したいと考えている医師が多くいて、そうした医師に機会を与えていただくことにつながります」と快諾。また、「徳洲会以外の専門医を『地域に必要なリソース』として尊重し、協働してくれる徳洲会、とくに徳之島徳洲会病院に感謝しています」とほほえむ。

かつては、退院しても痛みの訴えなどに在宅で対応できず、再入院するケースもあったが、現在は迅速に緩和ケアチームが対応し、在宅生活の継続が可能となっている。病棟看護師らも、在宅緩和ケアに移行できそうな患者さんがいれば、すぐに同チームに連絡、早期に緩和ケアが開始できるケースも増えた。その結果、18年度は19人だった在宅看取り数が、22年度は62人までに増えている。

25年に新築移転を予定している同院は、新病院に緩和ケア病床の設置を検討中。田畑看護師は「新病院では“ときどき病院ほぼ在宅”のような緩和ケアを一層深めていきたいと考えています。今年度は医療講演などを通じ、島民の方に在宅緩和ケアの意義などを伝えていきたいです」と意気込みを見せる。田上院長も「アウトリーチチームとして、徳之島に緩和ケアの文化を根付かせたい」と協力を惜しまない覚悟だ。

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