徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)07月24日 月曜日 徳洲新聞 NO.1399 1面
医療法人徳洲会(医徳)と徳洲会インフォメーションシステム(TIS)、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後遺症をテーマに共同研究を実施、頭痛や倦怠感、味覚・嗅覚障害、うつ、廃用症候群といった後遺症の発症率は、ウイルス株の種類や国民のワクチン接種率によって異なることなどが明らかになった。同研究は徳洲会メディカルデータベース(TMD=電子カルテ情報を基にした診療情報のビッグデータ)を活用し、医徳が保有する12万症例超のCOVID-19診療データを用いて、後遺症の発症率や年齢、ウイルス変異株、ワクチン接種率などとの関連性を調べた。COVID-19後遺症を対象とした10万症例を超える大規模データ解析は国内初。研究内容は日本医師会と日本医学会が発行する英文オンライン誌『JMA Journal』(URL:https://www.jmaj.jp/)に発表。
徳洲会グループは全国で新型コロナ患者さんの受け入れに尽力
研究では0~85歳までのCOVID-19患者さん12万2,045症例の臨床データを収集して解析を行った。2020年1月から22年6月までにCOVID-19と診断され、徳洲会グループ病院に入院あるいは外来受診した患者さんのデータだ。
代表研究機関の医薬基盤・健康・栄養研究所がデータの解析や研究の総括を行い、医徳とTISは協力機関として診療情報の提供やメディカルデータベースの作成を担った。
担当研究者である医薬基盤・健康・栄養研究所ヘルス・メディカル微生物研究センター感染メディカル情報研究室の今井由美子プロジェクトリーダーは「COVID-19後遺症は呼吸器症状にとどまらず、さまざまな臓器に表れることが知られており、後遺症への対策の必要性が高まっています。一方でCOVID-19後遺症を対象とした国内の調査は、これまで数千人規模の研究はありましたが、大規模な調査はありませんでした。それだけに、全国にまたがる幅広い年齢層の患者さんからなる12万人超のデータ解析の意義は大きいと言えます。またTMDは本研究のようにデータ駆動型(仮説を立てずデータを分析して研究を進める手法)の研究を行ううえで、大変有用なデータベースと言えます」と強調する。
今回の研究では、COVID-19発症から2週間以内を急性期、2週間以降を慢性期と定義。
解析の結果、頭痛、倦怠感、味覚・嗅覚障害といった後遺症は、急性期から見られ、そのうち約1割は慢性期まで症状が継続した。
一方、うつや廃用症候群は、とくに60歳以上の高齢者層で2~5割と高率で慢性期にまで及ぶ傾向を認めた。そのため、高齢者層に対する長期的な経過観察の重要性が示唆された。
また調査時期を、起源株やアルファ株が流行した第1期(ワクチン接種率2割未満)、デルタ株が流行した第2期(同約7割)、オミクロン株が流行した第3期(同約7割以上が2回接種済み)に分けて比較したところ、第2、第3期では後遺症の発症率が大幅に減少。ウイルス株の種類に加えて、国民のワクチン接種率も後遺症の発症率に影響している可能性が考察された。このほか高齢者では後遺症発症後に要介護度4、5の患者さんが増加する傾向もわかった。
「本研究成果を用いることで、日本でのCOVID-19後遺症発症リスクの解明や発症予防へとつなげていくことが期待できます。
今後は得られた知見をふまえて大規模臨床データを基にしたAI(人工知能)モデル構築などを行い、ウイルス感染症発症後の経過予測のシステム開発につなげていく予定です」(今井プロジェクトリーダー)
TISの尾﨑勝彦社長は「徳洲会の膨大な診療データを基にしたTMDは、どこにもないデータベースです。日頃から蓄積している臨床データだからこそ、COVID-19のように急に直面した課題に対する研究にも対応できます。TMDを活用しグループ内外で現在10件ほどの研究が進められています。これからもグループ内外の研究に協力し、日本の医療の発展に貢献していきたい」と抱負を語っている。