徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2023年(令和5年)05月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1389 1面

福岡病院―名瀬病院リアルタイム動画共有
初の本土―離島で内視鏡遠隔診療支援
井上・岸和田病院副院長が構想し実現

徳洲会グループのスケールメリットを生かした新たな医療の試みがスタートした。内視鏡治療を対象とした遠隔診療支援だ。離島・へき地に限らず多数のグループ病院への内視鏡応援診療に積極的に取り組む岸和田徳洲会病院(大阪府)の井上太郎・副院長兼内視鏡センター長が構想し、試行錯誤の末、リアルタイムに内視鏡画像を共有して円滑にコミュニケーションを取れる遠隔診療支援システムを実現した。1例目は4月26日、奄美大島にある名瀬徳洲会病院(鹿児島県)と、約600km離れた福岡徳洲会病院を通信回線で結び、名瀬病院にいる患者さんに胃ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)を施行した。本土と離島間での内視鏡遠隔診療支援は実臨床では国内初。

タブレット端末を手に支援を行う井上副院長 名瀬病院の手術室で胃ESDを行う古田医師(右)

「こちらに腰をかけてください。身体に機械(生体情報をモニタリングする装置)を付けさせていただきますね」

名瀬病院の栗山圭輔・麻酔科医師は患者さんに優しく話しかけた。ここは同院第3手術室。患者さんは70代男性で、これまでにも二度、胃ESDの手術を受けたことがある。過去の手術箇所とは異なる部位に新たな早期胃がんが見つかり、この日、全身麻酔下にESDを行うこととなった。

ESDを施行したのは岸和田病院消化器内科の古田朗人医師。一方、タブレット端末を手に遠隔で古田医師をサポートしたのは、応援診療のため福岡病院に詰めている井上副院長だ。

古田医師は複数のグループ病院で応援診療に取り組む医歴10年の内視鏡専門医。患者さんの入室前、古田医師は名瀬病院情報システム管理室の職員と、遠隔支援用モニターや、内視鏡画像を映し出すモニターなどのセッティングを入念に行った。

治療が始まると、ふたりはそれぞれの場所で同じ内視鏡画像を共有しながら、病変の範囲や切除位置、内視鏡先端に付けるフードの選択などについて頻繁に言葉を交わした。

井上副院長は音声でアドバイスを送ったり、内視鏡画像に重ねるようにタブレットペンで剝離ラインの位置などを描き込んだりした。描き込みはリアルタイムに名瀬病院側のモニターに反映されるという仕組みだ。

治療中、ある時には「ここまでは正常粘膜と考えます」(古田医師)、「その判断で合っていると思う」(井上副院長)などと治療方針を確認し、井上副院長が画面上に図示しながら「こっちからこっちに向かって切れるといい」と具体的にアドバイス。「こういう時はちょっと離れて全体を見てみるといいよ」と治療を進めるうえでのコツを伝える場面も見られた。こうしたアドバイスを受けながら古田医師は無事に治療を終えた。

教育ツールとしても有用

タブレット端末で線を描くと、名瀬病院の手術室にあるモニターにもリアルタイムに表示

井上副院長は2020年頃から遠隔診療支援の方策を模索してきた。「離島には指導医がおらず、若い医師が育ちにくい状況があります。遠隔から指導できるシステムをつくりたいと考えたのがきっかけです」と説明する。当初は頭にカメラを装着し、Zoomでその模様を送信するなど、自ら既存の製品をアレンジして試そうとしたが、実際の治療に使える水準には届かなかった。

そうしたなか、医療法人徳洲会の野村岳志・周術期医療地域支援室室長からアドバイスを受け、徳洲会インフォメーションシステム(TIS)に相談した結果、内視鏡画像を遠隔診療システム「Kizuna WEB」に伝送し、リアルタイムに画像を共有する今回のシステム構築につながった。

井上副院長はシステム開発や手術に参加した関係者に謝意を表したうえで「予想以上に鮮明な画像で、指示が出しやすかったです。ブラッシュアップして、さらに患者さんのためになるシステムをつくり上げていきたい」と意欲を見せる。続けて「直接、手は出せませんが、他の医師が治療を後ろから見てくれている状況は、とくに若い医師にとっては心強いと思います。教育ツールとしても有用だと確信しました」と強調する。

古田医師は「今回は、がんの範囲が広いうえに境界がわかりにくく、出血しやすい傾向の患者さんだったこともあり、難症例でした。遠隔支援システムのおかげで、まるで横に井上先生がいるかのように相談でき、精神的にとても心強かったです。快適に意思疎通できました」と及第点を付けている。

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