徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)05月08日 月曜日 徳洲新聞 NO.1388 1面
第20回日本臨床腫瘍学会学術集会が3月16~18日、福岡市内で開催された。徳洲会グループは、オンコロジー(腫瘍学)プロジェクトの一環で取り組んでいる“徳洲会リアルワールドデータプロジェクト”の研究成果など12演題を発表。がん医療への取り組みを強化している徳洲会は、臨床で得たデータを有効活用し、新たなエビデンスの構築を通じ、がん医療の進歩に貢献していきたい考えだ。
リアルワールドデータ研究について発表した瓜生副院長(右から3人目)、下山副院長(同4人目) (左から)玉井部長、荒牧医師 2演題発表した和泉医療センターの大田隆代・乳腺内科部長
リアルワールドデータプロジェクトでは徳洲会のスケールメリットを生かし、標準レジメン(がん薬物療法の標準治療計画)を用いたがん診療の10年間分の臨床データの解析に取り組んでいる。昨年の同学会で膵がん、胃がん、肺がんの3領域の解析結果を初めて発表した。今学会では膵がんと肺がんの二次解析、そして新たに胆道がんに関する発表を行った。
「転移性膵がんにおける血栓塞栓症と予後の相関解析(TR-EAD03-S1)」と題して発表したのは、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の下山ライ副院長兼外科部長。がん関連血栓塞栓症(CAT)の発症率と全生存期間(OS)への影響を調べた結果、発症率は約10%で予後は不良になる傾向がわかった。
下山副院長は「化学療法を施行した転移性膵臓がん患者における予後予測スコアの検討(TR-EAD03-S3)」、「日本における転移性胆道がんの治療成績(TR-EAD04)」も発表。
TREAD03-S3では炎症スコアと生存率の相関性を調べた。既存の炎症スコアに加え、複数の血液検査データをもとに算出するBLDという独自のスコアを含めた18種類の炎症スコアを検討。BLDが予後との相関性が最も高く、mGPS、GPS、LIPSの順で相関していた。血栓塞栓症や炎症スコアに関しては他のがん種も対象に研究を継続する意向だ。
TREAD04では実際に行われた治療法や治療成績などを提示。胆道がんは早期発見が難しく予後の悪いがんだ。「より生存期間の延長が見込める併用療法(GC)の標準レジメンが広く使われていることがわかりました。免疫チェックポイント阻害薬を併用する新しい標準治療が始まっていますので、今後もフォローアップしていきたい」。
肺がんでは八尾徳洲会総合病院(大阪府)の瓜生恭章・副院長兼腫瘍内科部長が「EGFR変異陽性NSCLC(非小細胞肺がん)における併用制酸剤の予後への影響(TREAD 01-S2)」を発表。鎮痛薬の副作用で消化管潰瘍が懸念される場合、制酸剤を用いることがある。ただし相互作用により、肺がん治療薬であるゲフィチニブやエルロチニブの吸収低下が知られており、その予後への影響を調べた。瓜生副院長は「この2剤に加えアファチニブとオシメルチニブでもOS低下の可能性があることがわかりました」とまとめた。
会場には研究協力者の今村善宣・神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科助教や、田栗正隆・東京医科大学医療データサイエンス分野教授らが駆け付けた。
同プロジェクト以外では、湘南鎌倉病院の荒牧宏江・呼吸器内科医師(内科専攻医)が、血液内科をローテート研修中の症例をもとに「造血器腫瘍と鑑別を要した肉腫の2症例」を発表。肉腫は病理学的特徴や画像所見が血液腫瘍と似ていることに加え、まれな疾患であることなどから正確な診断に時間を要する。
発表では、診断当初は血液腫瘍を疑い、化学療法施行後にあらためて肉腫と診断した症例の経過を紹介。「細胞マーカーなどから血液腫瘍を疑いましたが、肉腫でも発現することがあるため、肉腫も鑑別に挙げることが望ましい」と示唆した。共同演者の玉井洋太郎・同院血液内科部長は「診断の難しい領域であるため、そこに焦点を当てた発表は意義が大きい」と評価。
同院はほかにも1演題発表。和泉市立総合医療センター(大阪府)が4演題、千葉西総合病院、仙台徳洲会病院が各1演題発表した。