徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)04月17日 月曜日 徳洲新聞 NO.1385 1面
南部徳洲会病院(沖縄県)は顎関節腫瘍の患者さんに対し、初めて顎関節人工関節全置換術を実施し奏功した。同手術は九州・沖縄地域で初。これまで顎関節の異常で口が開閉できない患者さんには、下顎頭(下顎骨の先にあり上顎とつながる部分)だけを置換する手術が主流だったが、はずれたり炎症を起こしたりといった課題があった。顎関節人工関節全置換術で用いるのは、上顎と下顎がセットになった人工関節器具(インプラント)で、同手術により安定した口の開閉が可能になる。同院は治療の幅を広げ、地域の患者さんに貢献をしていく。
「治療の幅が広がりました」と又吉部長
顎関節は下顎を開閉させる「蝶番運動」と、下顎を前や横に動かす「滑走運動」を複合させることで、口の開閉をスムーズに行うことができる。この動きはとても複雑なため、病気で口が開閉できない患者さんに対し、これまで日本には良いインプラントがなかった。
顎関節人工関節全置換術に用いるインプラントは、側頭部の関節窩(下顎窩)に置き換える「フォッサインプラント」と、下顎頭に置き換える「マンディブラーインプラント」のセット(2019年に薬事承認)。
同手術では、側頭部から耳の前の部分と下顎部分の2カ所を切開し、下顎の関節突起を切除した後、下顎窩と下顎頭にインプラントをそれぞれ固定することで、安定した顎の動きが可能になる(図)。
昨年夏に同院の又吉亮・歯科口腔外科部長と、中部徳洲会病院(沖縄県)の仲宗根敏幸・歯科口腔外科部長が、日本口腔外科学会が開いた同手術の講習を受け、それぞれ施設認定を取得。その後、11月に南部徳洲会病院で適応する症例があり、仲宗根部長が応援に駆け付け同手術を実施した。
症例は、顎関節を取り囲むように滑膜腫という良性腫瘍が発生した患者さん。長い間、口を開けた時に痛みがあったが、診療所でのレントゲン検査では何も写らず顎関節症と診断、その後も痛みが改善しなかったため同院に紹介された。CT(コンピュータ断層撮影装置)撮影したところ、滑膜腫を発見、顎関節の内側まで広がっており、良性腫瘍とはいえ、残ると再発の可能性もあるため、顎関節を大きく切除する必要があった。
しかし、又吉部長は「本当に人工関節にして良いのか悩みました。ただ、ほかの手術をしても、あまり良い結果は出ないだろうと考えました。たとえば、下顎頭を腫瘍ごと切除し、人工関節を設置せずにリハビリテーションで口の動きを改善させる方法もありますが、次第にかみ合わせがずれてくることもあり、生活の質が落ちる可能性があります」と振り返る。
下顎頭付近には重要な血管や神経が多く、腫瘍が大きくなればなるほど干渉するリスクが高まるため、早めに手術をする必要がある。又吉部長は一緒に講習を受けた仲宗根部長にも相談したうえで、同手術の適応になると判断し、実施に至った。
術前にはCTデータをもとに模型をつくり、インプラントのサイズ感や神経を傷付けずに設置するための位置などを確認。現段階では、インプラントはオーダーメイドではなく、欧米人向けのサイズしかないため、患者さんへの適応を慎重に確認する必要がある。また、術後は口内の菌に感染させないように、少し長めに1週間ほど抗生剤を投与した。
同手術は九州・沖縄地域で初。又吉部長は「そんなつもりはなかったので、驚きました。それだけ顎関節の手術が少ないことの裏返しだとも思います。また、仲宗根先生と相談しながら手術を進められたことは、とても心強かったです。私自身は腫瘍が専門ですので、顎関節の手術が実施できたことは大きな成果であり、治療の幅が広がったと感じています」と強調。
今後の展望は「たとえば、原因がはっきりしないけれど、下顎頭が溶けてしまう病気もありますが、こうした患者さんもこの手術の適応になると思います。ただし決して簡単な手術ではなく、失敗したら人工関節を取り付けるための骨がだめになり、二度と取り付けられなくなる可能性もあります。年齢や骨の状態などを総合的に判断し、手術の適応をしっかりと検討していきます」と慎重な構えだ。