徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)03月06日 月曜日 徳洲新聞 NO.1379 1面
福岡徳洲会病院は中皮腫の確定診断に有効なFISH(fluorescence in situ hybridization)法検査をグループで初導入した。中皮腫とは胸膜の表面を覆う中皮細胞にできる腫瘍で、主にアスベスト(石綿)曝露で生じる。FISH法は蛍光色素でラベリングしたプローブ(標的遺伝子と相補的な塩基配列を有する合成遺伝子)を標的遺伝子と結合させ(ハイブリダイゼーション)、蛍光顕微鏡下で可視化する手法だ。昨年4月に鍋島一樹・病理診断センター長が入職し、同検査を開始した。
「国の補償・救済制度を受けるためにも病理診断は重要」と鍋島センター長(前列中央) 正常細胞に比べて中皮腫を発症した細胞は赤色の蛍光色素が失われている
中皮腫の原因となるアスベストは1960年代から90年代にかけて、断熱材や保温材、防音材として建築物に使用されていた。こうした背景の下、アスベスト曝露者はアスベスト肺や中皮腫など健康被害を発症。中皮腫は多くの場合、曝露後30~40年経ってから発症するため、2030~2040年に発症のピークが訪れると見られているが、曝露者の高齢化により、その後も高止まりすることが予測されている。
中皮腫を発症すると肺の機能が阻害され、胸痛やせき、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感が起こる。治療には手術や化学療法、21年5月に保険適用された免疫チェックポイント阻害薬が使用されるが、発症後2年以内に死亡するケースが多い。
鍋島センター長は「病理診断されても、残念ながら現状では完治は難しく、多くは症状の進行を遅らせることにとどまります」としながらも、「アスベストが原因で病気になった場合、国の補償・救済制度を利用して、自分の療養や家族の生活をサポートすることができます。そのためにも病理学的な確定診断は重要になります」と強調する。
細胞診や生検組織の形態学的所見だけでは、腫瘍か反応性病変か区別がつきにくく、中皮腫の確定診断には至らない。そのため免疫染色やFISH法が有効な検査となる。
中皮腫になると、6~7割でがん抑制遺伝子であるCDKN2Aが失われることが判明している。FISH法では、CDKN2Aが存在する染色体の9p21領域に対するプローブを赤色の蛍光色素でラベリング、さらにセントロメア(染色体の長腕と短腕が交差する部位)に対するプローブを緑色の蛍光色素でラベリングしたうえでハイブリダイゼーションすると、正常細胞では赤色と緑色の蛍光色素が2個ずつ同数あるのに対し、中皮腫を発症した細胞は赤色の蛍光色素が2つ共に失われる。
FISH法の実施施設は少なく、徳洲会では同院のみ。九州・沖縄地方全体でも、同院以外は福岡大学病院などに限られている。そのため福岡病院では、中皮腫を疑われる症例でグループ内外から同検査の依頼を受け入れている。また、同院では、BAP1(がん抑制遺伝子)を免疫染色して診断する方法も併用、診断率の向上に寄与している。
FISH法を実施するには、ハイブリダイゼーションという分子生物学的手法が必要になる。同手法を学ぶために、同院の臨床検査技師は福岡大学病院で研修を受けた。
鍋島センター長は「今後は細胞診からも、より診断につなげられるように、中皮腫細胞の形態的異常のデータを蓄積し、フィードバックしていけたらと思います」と意欲的だ。