徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2022年(令和4年)10月31日 月曜日 徳洲新聞 NO.1362 1面
武蔵野徳洲会病院(東京都)は尿路結石の最新治療であるECIRS(経皮的経尿道的同時破砕術)を開始した。7月に入職した大岩祐一郎・泌尿器科医師が同治療を担当。TUL(経尿道的腎尿管結石破砕術)とPNL(経皮的腎尿管結石除去術)を同時に行う治療法で、双方のデメリットを補い、身体に優しい結石治療が可能だ。同院は昨年6月に「尿路結石治療24時間センター」を開設、奴田原紀久雄センター長を中心に、あらゆる尿路結石症の患者さんに対応。
ECIRSで結石治療を行う大岩医師
尿路結石とは腎臓や尿管、膀胱、尿道に石が生じる病気。腎臓、尿管の結石は上部尿路結石、膀胱、尿道の結石は下部尿路結石と分類され、約95%は上部尿路結石となる。自然排石率は5㎜未満で約70%と言われ、小さいほど排石されやすく、排石までの時間も短い。画像診断で自然排石が困難と判断された場合などは、外科的に砕石治療を行う。
砕石治療の種類は主に3つ。体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は、体外から衝撃波エネルギーを結石に当て、砂状に粉砕し、破砕片を尿とともに体外に排出させる治療。麻酔を使わずに治療できるため、1泊2日の入院でも可能だ(武蔵野病院では今後、日帰り治療も実施していく方針)。ただし、15㎜超の結石や硬い結石には複数回の治療が必要となる。
「ECIRSは体に優しい結石治療です」と大岩医師
TULは尿管から細くしなやかな内視鏡(尿管鏡)を挿入し、結石にレーザーを照射し粉砕した後に回収する治療。同治療はESWLが苦手な20㎜を超える大きな結石や比較的硬い結石、複数個の結石にも有効であり、かつ尿路全体をカメラで詳細に確認できる。デメリットは尿管に負担をかけることと、尿管狭窄症や術後の腎盂腎炎などの合併症を防ぐ目安となる1時間以内では、治療可能な範囲が限られていることなどが挙げられる。
PNLは背中から腎臓に6~10㎜の穴を開け、そこから内視鏡(腎盂鏡)を挿入、レーザーで結石を破砕し取り出す治療。結石に対する破砕力・結石除去力はTULより高く、腎臓深部の大きな結石や腎盂や腎杯を埋めるサンゴ状結石の除去もできる。しかし、TULと比べカメラの操作範囲が狭く、出血が多いのがデメリットだ。
大岩医師は「多くの医療機関では、適応範囲が広いTULが主流です。厚生労働省の調査によると、最近になりESWLの治療件数を上回りました。PNLは全体の5%ほどです。どの砕石治療にも良い点と悪い点がありますので、これまでは患者さんの状況により治療を選択し、複数回の手術が必要な場合もありました」と振り返る。
TULとPNLを同時に行い、双方のデメリットを補う
双方のデメリットを補うため、TULとPNLを同時に実施できれば良いが、TULは仰向け、PNLはうつ伏せで手術を行うため、併用療法は難しいとされてきた。しかし、両治療を同時に実施できる体位が発表され、ECIRSが誕生、日本では2021年4月に保険収載された。
たとえば、尿管に結石があり、高度の水腎症を起こしている患者さんの場合、腎臓が腫れていると、その圧力で尿管がゆがみ、内視鏡を挿入しにくくなる。TULでは手術事体が困難なケースがあったが、ECIRSでは、まずPNLで腎臓内の尿を抜き、尿管の形が安定した後、TULで尿管の結石をスペースにゆとりのある腎臓に移動させ、破砕力の高いPNLで処理。最後にTULで結石の取り残しを詳細に確認するという方法が可能だ。
大岩医師は「PNLだけでは残石のリスクがありますし、TULを長時間行うと尿管への負担が大きくなり、尿管狭窄症などの合併症のリスクが高まります。ECIRSなら双方のデメリットを補い、1回の入院日数はそのままに、治療回数を減らすことができます」とアピールする。
同院では、小さい結石のみであればTULを実施するが、これまでPNLの適応だった症例ではECIRSの体位で手術を行い、術中にTULを併用するか判断、状況に応じベストチョイスを行う。7月に入りECIRSの1例目を実施、年間40件ほどになる見込みだ。また、従来よりも細径の内視鏡(腎盂鏡、外径5・3㎜)を新たに導入し、出血など合併症の低減に努めている。
昨年6月に開設した尿路結石治療24時間センターでは、治療後の再発の予防、治療を終えた患者さんのフォローアップにも尽力している。
大岩医師は「取り出した結石の成分を調べ、内服で再発を予防できることもあります。また、術後の定期的なフォローにより、早期発見、早期治療を心がけます」と強調。さらに「ECIRSでは術後に腎瘻カテーテルや尿管ステントを留置し、尿の流れを確保するようにしていますが、今後はその工程が必要のない治療を目指しています。患者さんの負担をより軽減し、腎臓の機能を守り、安全な治療を目指します」と抱負を語る。