徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2022年(令和4年)07月18日 月曜日 徳洲新聞 NO.1347 1面
岸和田徳洲会病院(大阪府)の井上太郎・副院長兼内視鏡センター長と、八尾徳洲会総合病院(同)の大田修平・外科医長は協働し、鹿児島県の離島に立地する徳之島徳洲会病院と名瀬徳洲会病院で、胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)を施行した。LECSを行うのは徳之島病院、名瀬病院ともに初。グループのスケールメリットを生かした新たな取り組みだ。また、グループ病院に対する内視鏡の応援診療(検査・治療)を積極的に行う岸和田病院消化器内科では、応援診療として実施した内視鏡件数が過去最多の年間約2万1000件に達し、自院で実施した内視鏡診療と合わせ2021年の内視鏡件数は約4万件に上った。
(左から)岸和田病院の山本雅貴専攻医、郡山隆志医師、井上副院長、江角隼医師、三谷捷・初期研修医
(右から)八尾病院の大田医長、八田専攻医
外科と消化器内科が合同で手術を行うLECSの様子
「これからLECSを始めます」。こう切り出した大田医長は、患者さんの氏名や年齢、手術部位などを読み上げた。患者さんの取り違えや手術部位の間違いを防ぐために、手術にかかわるスタッフ全員で手術直前に行うタイムアウトと呼ばれる医療安全のための確認作業だ。
6月8日午後1時過ぎ、ここは名瀬病院の手術室。スタッフはタイムアウトのため、手術台を取り囲むように集まり、情報を確認・共有して全身麻酔下に手術をスタートした。
患者さんは70代の男性で、健診の胃透視検査で2年前に胃粘膜下腫瘍が見つかり、経過観察中。治療方針として短期間に腫瘍が大きくなる場合は、悪性腫瘍である消化管間質腫瘍(GIST)の可能性も考慮し、手術で取り除く方針としていた。今年の検査で大きくなっていることがわかったため、手術に至った。
従来、胃粘膜下腫瘍の低侵襲手術は腹腔鏡のみによる手術だったが、病変位置の正確な把握が難しく胃壁を余分に切除することが多かった。これを克服するため考案されたのがLECSだ。外科医による腹腔鏡手術と消化器内科医による内視鏡治療を並行して行う新しい治療法で、胃の内側と外側からアプローチし、低侵襲に適切な範囲で病変を切除できるのがメリット。機能を温存しやすくQOL(生活の質)を保ちやすい治療法だ。
大田医長はポート(腹腔鏡カメラや鉗子を挿入するための筒状の医療器具)の位置を決定し、おなかに開けた穴からカメラや鉗子を挿入。粘膜下腫瘍がある胃の部位が腹腔内の奥のほうだったため、手前にある肝臓をフックでつるすなど術野を確保しながら慎重に手術を進め、病変部位に到達。この後、井上副院長が上部内視鏡で内側から病変の位置や状態を確認。さらに、内視鏡を操作し内側から押すなど合図を送り、病変の正確な位置を大田医長に伝えた。腹腔鏡での縫合が難しい位置だったため、大田医長は自動縫合機を使用し切除・縫合。病変を回収し手術を終えた。
大田医長は「今回は病変が奥にある難しい症例でしたが、予定どおり手術を終えることができました。内視鏡で井上先生に内側から見てもらって、きちんと縫合できているかなど確認していただきました」と振り返った。
井上副院長は「5月にも徳之島病院で日程を合わせて大田先生と胃粘膜下腫瘍に対するLECSを施行しました。その症例は胃の内側に大きくふくらんだ腫瘍でしたので、内側から内視鏡で腫瘍の周囲をくり抜くように切除し、最後に外側から縫合するという治療になりました。LECSでなければ開腹手術を行う症例でしたが、低侵襲に治療できました。患者さんに良い医療を提供するため、グループ病院間で医療者が移動し、診療を行えるのは徳洲会の強みです」。
全国のグループ病院に対し積極的に内視鏡の応援診療を行う岸和田病院消化器内科。“離島応援は通常業務”という認識を同科全体で共有し、症例の多い同院で医師を集め、応援派遣を行う仕組みを確立している。
2021年に応援診療で実施した内視鏡診療(検査・治療)は、23病院1診療所で計2万1136件にも上った。岸和田病院自体でも1万9392件に達し、同院消化器内科全体の実績は4万528件にも上る。
こうした応援体制の維持・強化のためにも若手医師の育成に注力。LECSを行ったこの日、井上副院長以外に岸和田病院の消化器内科医2人と同科専攻医1人、初期研修医1人の計4人が名瀬病院で診療に従事。井上副院長は、これら医師とともにESD(粘膜下層剝離術)3件とERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)1件を実施し、時折、手技のコツなどアドバイスを送った。
「離島病院などでの応援診療は、貴重な教育の機会にもなっています」(井上副院長)
八尾病院外科も3年ほど前から徳之島病院の応援診療に取り組み、外科医が1週間交代で診療。今回のLECSに八尾病院の八田康佑・外科専攻医も助手として加わった。