2015年(平成27年)4月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.977 三面
サイエンス漢方処方研究会シンポ
「炎症の把握・制御が基本」
サイエンス漢方処方研究会は都内で4回目のシンポジウムを開催した。同研究会の理事長は静仁会静内病院(北海道)の井齋偉矢院長。今回は「The Best Case Study」と題して、多様なテーマによる症例発表をメインに行った。全国255人の会員(2月末現在)のうち、この日は77人が参加した。
井齋・静仁会静内病院院長が理事長
今後も漢方普及活動に意欲を見せる井齋院長
シンポジウムは4部構成で、このうち井齋院長は第2部で登壇。「漢方薬の作用機序からみた薬物療法のパラダイムシフト」をテーマに基調講演を行った。
井齋院長は、はじめに薬物治療に対する考え方を説明。「薬が病気を治しているのではなく、治すのは患者さん自身の力。薬はあくまでも治るように体内のシステムをオンにするトリガー(引き金)に過ぎません」と強調した。漢方薬が作用するメカニズムを理解するには、こうした従来の治療学とは異なる視点が求められることを示した。
また西洋薬と漢方薬では構造や介入様式が異なる点を指摘。介入様式については「体内のシステムをオンにするためのスイッチをボタンでたとえるなら、ひとつのボタンを強く押す西洋薬に対して、漢方薬は軽いタッチでたくさんのボタンを押すイメージです」と紹介した。
これらをふまえ、井齋院長は人間の体内には漢方薬のように多成分にしか反応しない複雑な系統が存在することを示唆。①免疫賦活(ふかつ)系・抗炎症系、②微小循環系、③水分調節系、④熱産生系――の4つを挙げ、このうち熱産生系は、ほかの系統にも影響を及ぼすベースになることを明かした。この熱産生系は、現代医療であまり注目されていないことに触れ、「現代医療の盲点」と指摘。
この後、井齋院長は微小循環や水分調節など各系統の障害や異常の把握、その制御について解説。「漢方薬は病態(体内のシステムの変調)を使用目標とする薬剤。ゆえに炎症の把握・制御が基本です」と、ポイントを提示した。
最後に、超多成分薬剤システムにしか反応しない系統があることに再び触れ、「すべての医師が漢方薬を処方できる知識・スキルをもつことは必須」と主張。このため「今後も活動を続けていきたいと思います」と締めくくった。
第1部では10題の症例発表があった。3題の柴胡湯(さいことう)に関する演題をはじめ、「歯根端切除後の難治性の根幹治療に荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)を併用して著効を示した1例」、「誤嚥(ごえん)性肺炎を契機に発症した呼吸不全に対して、清肺湯(せいはいとう)が有効と考えられたパーキンソン病の1例」など、テーマは多岐にわたった。
第3部はワークショップ、第4部は総合討論を行い、それぞれ活発な議論を展開。盛況裏に幕を閉じた。