2020年(令和2年)9月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1255 一面
放射線治療 追尾照射機能用い肝がんへ初実施
岸和田病院
トモセラピー「Radixact with Synchrony」
岸和田徳洲会病院(大阪府)はトモセラピー「Radixact with Synchrony」(ラディザクト ウィズ シンクロニー)で胆管細胞がん(原発性)の放射線治療を行った。同装置は病変部を追尾して照射する機能を備えており、この機能を用いた肝治療は同院初。国内でも2例目だ。胆管細胞がんで根治を望む場合、治療法は一般的に外科手術のみ。同院の谷畑博彦・放射線科部長は同装置の機能を活用することで放射線治療も選択肢になり得る可能性を示唆。「今まで無理だと思っていた症例に対応できるかもしれません」と期待を寄せている。
国内2例目 新たな選択肢に期待
病変部に照射できているか確認する谷畑部長(奥)ら
「Radixact」はコンピュータ制御下で、がんの性状に合わせ、放射線が照射される量や形を変え360度あらゆる角度から連続照射が可能な高精度放射線治療装置。CT(コンピュータ断層撮影)機能を有し、治療直前と治療計画時の撮影画像を比較し腫瘍の位置のずれを補正したうえで照射(IGRT=画像誘導放射線治療)したり、治療後に正しい位置や線量を検証したりすることも可能だ。
さらにSynchronyオプションは病変部を追尾・検出・補正し照射する機能を搭載。患者さんの体表面にLED(発光ダイオード) マーカを装着し、専用のカメラでマーカの動きから呼吸のパターンを特定する。そのデータとガントリ内部の装置が撮影した標的のX線画像から、臓器にともなって動く病変部の位置をリアルタイムで検出し照射する。
肝臓や膵臓(すいぞう)、前立腺など、X線画像では腫瘍の位置がわかりにくい部位には、体内マーカを用いて標的の位置情報を認識しやすくする。これらの機能により、正常組織の損傷リスクを抑え、より効率的な治療が可能になる。
岸和田病院が治療を行った胆管細胞がんは、肝臓内に張り巡る胆管に生じたがん。根治を目指す場合、一般的に治療法は外科手術となり、放射線治療は切除可能なケースでの補助療法や緩和目的のケースで行うことが多い。その理由を谷畑部長はこう説明する。
「肝臓は横隔膜の下に位置するため呼吸などで動きやすく、放射線照射時に正常組織を傷つけるリスクがあります。放射線治療の長い歴史のなかで〝耐容線量〟といって臓器ごとに耐え得る放射線量がわかっており、私たちはそれをもとに治療計画を立てますが、肝臓は他の臓器に比べ耐用線量が低く放射線に弱い。最近は体内から局所的に照射して治療する方法も見られますが、一般的に胆管細胞がんへの放射線治療は補助的な方法として用いられます」
同院でも、これまで数少ないものの肝臓を対象とした放射線治療を実施。その場合、1日のうちに複数回照射する加速過分割法で実施してきた。同法であれば、副作用が少なく、治療期間も短い反面、1日に複数回照射を受けることになるため、患者さんは入院しなければならず、1日に治療が受けられる患者数も制限があった。
5月に「Radixact with Synchrony」を導入して以降、同院は追尾照射機能が不要な乳がん、追尾照射機能を生かした肺がんの治療を実施。こうしたなか、7月に胆管細胞がんの患者さんを治療することとなった。「当院のキャンサーボード(複数の診療科医師や多職種で、がん患者さんの最適な治療方針を決定する会議)で高齢であることと肝機能の低下から手術が困難と判断し、根治を目指し放射線治療を行うことを決めました」(谷畑部長)。
患者さんの体表面で赤く光るLEDマーカで呼吸パターンを特定
体内マーカ。今回の治療では写真左を使用。金製で体内に留置しても影響はない
治療は8月に開始。肝腫瘍のため谷畑部長が体内マーカを患者さんの体内に留置し行った。1回当たり照射時間は約5分で入室から退室までは約15分。その後も通院で治療を継続し、経過は順調だという。
「腫瘍を狙い撃ちできるため、病変部が動くことや線量に対し必要以上に気を奪われることがありません」と多間田寿士・放射線科技師長(診療放射線技師)。谷畑部長は「患者さんの経過に細心の注意を払う」としつつ、今後も肝細胞がんの治療を手がけることに意欲を見せる。
「今まで無理だと思っていた症例に対応できる可能性があると期待しています。今回は原発性肝がんですが、肝がんは転移性腫瘍が圧倒的に多い。症例を見極める必要がありますが、いずれ転移性の肝細胞がんにも対応し、治療の選択肢の幅を広げたいです」。
同装置を製造販売するアキュレイ社によると、9月24日時点で追尾照射機能を臨床活用している施設は全国で岸和田病院含め3施設という。