2020年(令和2年)9月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1252 三面
羽生病院
コロナ陽性者への初手術 対策徹底し感染なく終了
羽生総合病院(埼玉県)は8月6日、初めて新型コロナウイルス陽性患者さんに対する手術(骨折整復手術)を実施した。同院では5月下旬にコロナ陽性者の手術に関するマニュアルを作成、これに基づき手術を行い院内感染なく経過している。さらに9日には、コロナ陽性の妊婦さんへの帝王切開も実施した。他の徳洲会病院でも同様の手術に取り組み始めている。
手術室の運営に携わる(右から)西田部長と小堀看護師
麻酔導入時の挿管や手術終了後の抜管では、飛沫(ひまつ)やエアロゾル(空気中に浮遊する微細な粒子)が発生しやすく、感染の危険性が高まる。さらに抵抗力が下がる周術期患者さんが出入りする手術室に、コロナ陽性者が入室するリスクや、手術室のスタッフに感染が起きた場合、手術室の運営が止まるリスクなど考えられるなか、羽生病院では同手術の実施を決断した。
手術室の運営に携わる西田昌昭・麻酔科部長は「整形外科からコロナ陽性患者さんの手術の相談が来た時、やるしかないが、感染者は絶対に出さないようにしなければならないと気を引き締めました」と強調。続けて「コロナ陽性患者さんの手術に二の足を踏む病院があるのも事実です。しかし、コロナ陽性であろうと手術が必要な患者さんはいますし、陰性化を待つ間に容体が悪化することも考えられます。こうした事態を想定し準備を進めていました」と振り返る。
同院の手術室スタッフは5月下旬、日本麻酔科学会や日本感染症学会などが作成したガイドラインに基づき、コロナ陽性者の手術に関するマニュアルをつくり、院内のICT(感染対策チーム)でも内容を検討した。同マニュアルでは、入室前から手術終了後まで時系列で、スタッフや患者さんの動線、行うべき感染対策などを示しており、手術室ではスタッフがシミュレーションも重ねた。
8月6日の陽性患者さんへの手術は、その日に予定していたすべての手術が終了し、全患者さんが退室してから実施。整復手術に必要ないものはすべて室外に出し、室内でスタッフが触りそうなところはビニールシートなどで保護、室内をレッドゾーン(汚染区域)、室外をグリーンゾーン(非汚染区域)と設定した。レッドゾーンに入るスタッフは最小人数に抑えると同時に、物品のやり取りなど間接介助のためにグリーンゾーンにもスタッフを配置。手術後には室内の換気を行い、室内外を清掃・消毒し、3日間の使用禁止にした。
手術に必要ない器具は部屋から出し、ロッカーは養生テープで密閉
室内で手術時の外まわりを担当した小堀秀輔看護師は「マニュアルがあったから、あわてずにすみましたが、思った以上に気を遣いました。これからこうした手術が増えてくると思うので、1例目を参考にして対策を講じていきたいです。また手術終了後、スタッフに感染者が出ずに、ほっとしていますが、どこに感染のリスクが潜んでいるかわからないので、どんな時でも気を付けていきたいと思います」と気を引き締める。
マニュアル見直しの必要性も浮かび上がった。たとえばアルコール消毒やゴミ箱の設置場所などに改善の余地があった。また、マニュアルでは「使用した手術室およびエリアの清掃」とだけ書かれた項目の作業が、実際は3人で4時間近くもかかった。
西田部長は「安全かつ合理的に運営する方法を考えなければなりません。実際にコロナ陽性患者さんの手術を経験したことで、わかったこともありますし、スタッフの機運も高まりました」と述懐。「今後は、すべての手術予定者への遺伝子検査の実施も視野に入れ、より安全な手術室運営に努めます」と抱負を語る。