徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2019年(令和元年)7月8日 月曜日 徳洲新聞 NO.1192 四面

読み解く・読み得
“紙上医療講演”26
「声を諦めないで」

今回のテーマは「声の病気」。声は喉頭(こうとう)にある一対のひだ(声帯)が閉じ、振動することで発生。音声障害には声帯自体に異常がある場合とない場合があります。異常がある病気には声帯ポリープや喉頭がんなどがあり、手術による切除や放射線療法、化学療法などで治療。今回は異常がない病気として声帯麻痺(まひ)(反回神経麻痺)、けいれん性発声障害について、札幌東徳洲会病院の國部勇・耳鼻咽喉(いんこう)科・頭頸(とうけい)部外科主任部長が解説します。

國部勇・耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任部長 札幌東徳洲会病院 國部勇・耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任部長 札幌東徳洲会病院

声帯麻痺は声帯を動かす神経(反回神経)が何らかの原因により麻痺を来し、声帯が動かなくなる病気です。反回神経は頭蓋内から下降し、すぐに声帯に向かうのではなく、大動脈弓や鎖骨下動脈に向かい、これらの血管に沿ってUターンし再度上行、目的地である声帯に到着します。

反回神経は大動脈や食道、甲状腺、リンパ節などと隣接。このため甲状腺がんや肺がん、食道がんなどが直接、神経に浸潤し麻痺を生じたり、頸部や胸部の手術が原因で麻痺が生じたりすることがあります。

症状として、発声の時に声帯が閉鎖しにくくなり、息の漏れるようなかすれ声や誤嚥(ごえん)(とくに水分)が生じます。息がもれると、息が続かなくなるため長い時間しゃべることができなくなります。こうした症状が出た場合は、麻痺の原因を検査すると同時に、改善しない患者さんには喉頭形成術を行います(図)。

喉頭形成術は甲状軟骨に穴を開け人工材料で声帯を内側に押し込む 喉頭形成術は甲状軟骨に穴を開け人工材料で声帯を内側に押し込む

同手術は甲状軟骨(のどぼとけ)に穴を開け、麻痺し開いた声帯を人工材料で内側に押し込む手術です。手術は局所麻酔で行い、術中に患者さんに声を出してもらいながら、一番きれいな声色のところで声帯の位置を固定します。がんの治療などで声が出なくなったとしても、声を取り戻し、QOL(生活の質)を維持することは可能です。

けいれん性発声障害は声を出そうとすると、自分の意思と無関係に声帯が異常な動き方をしてしまう病気です。診断が困難なため、耳鼻咽喉科や内科などをいくつも受診し「異常なし」、「精神的なものが原因」と言われてしまうケースが多くあります。また、診断がついても治療できる施設は限られているのが現状です。

同疾患を疑う状態として①声が詰まって出にくい感じ、または震える感じがある、②はたから聞くと、ほとんど正常に近いが、本人のみ発声しにくい感覚がある、③耳鼻咽喉科に受診する時に限って声の状態が良くなることがある、④家族と会話する時など、リラックスしている時は楽に声が出ることもある―などが挙げられます。

代表的な治療に声帯筋へのボトックス注射があります。ボトックスには筋肉の収縮を抑制する働きがあるため、けいれんが一時的に改善します。ただし、効果は3カ月程度で切れるため、その都度、外来で注射を受ける必要があります。他にリハビリテーションで対応することもありますが、効果は低いと言われています。

昨年6月に保険適用された治療として、チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術があります。これなら低侵襲で長期的な発声障害の改善が期待できます。同術を施行するには施設要件を満たす必要があり、北海道では当院を含め3施設しか認定されていません。

このような疾患がなくても声の調子が悪くなることはよくあります。日頃から声帯の健康を維持するには、タバコを吸わない、乾燥させないなど気を付けることも大切。もし病気が原因で声を失ったとしても、手術などで治る可能性もありますので、諦めず専門医に相談してください。

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