
直言
Chokugen

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直言 ~
東上 震一(ひがしうえしんいち)
医療法人徳洲会副理事長 岸和田徳洲会病院院長(大阪府)
2018年(平成30年)8月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.1148
「0、1」の二進法に人格は宿り得るのでしょうか。米国の未来学者、レイ・カーツワイルは2045年には「シンギュラリティ:技術的特異点」が生起し、人間の知性をはるかに凌駕する超AI(人工知能)が出現すると予想しています。現実に医療の現場でもAIを、ある特定の分野(画像認識・診断)に機能を限定し活用しようという取り組みが行われています。たしかにコンピューター(PC)は物忘れや勘違いをしませんから、膨大な医療情報のなかで、日々判断を迫られる医療者にAIは強力なバックアップとして取り入れられていくと思います。
ただ私にはPCにまつわるトラウマにも似た苦い思い出があります。心臓外科で使用する人工心肺の基礎研究に取り組んでいた頃、約1年をかけて築き上げたデータが、一瞬のPC作動停止(フリーズ)により消失したことがありました。当時、医療関係者の多くは、グラフィック機能の良さからアップル社の「マッキントッシュ」を使っていました。「データはどこにある?」という私の問いに、「先生、宇宙のかなたに」と、PCに詳しい後輩ドクターの申し訳なさそうな言葉に、茫然自失した記憶があります。
アップル社の創始者であるスティーブ・ジョブズの講演動画を見た時も、今どきのIT成功者の話として、またマッキントッシュでデータを消失したことがあったが故に、それを意図的に切り捨てようとするネガティブな感情が働きました。しかし彼の講演内容は私の思い込みを覆して余りあるものでした。
育ての親が苦労して蓄えた金を、有名大学の学費としてわずか半年で使い果たした時、ジョブズは退学します。そしてもぐりの聴講生として、興味のある講義を何と1年半も受け続けたのです。もちろん彼に部屋はありませんから、友人の部屋を泊まり歩き床に横になったのです。
食べ物を買うためにコーラ瓶を集めて得られる5セント(1ドル=120円として6円)をかき集め、また毎週日曜日には7マイル(約11㎞)先の教会へ、無料の温かい食事にあり付くために歩いたのです。結果的には、この時に、もぐり込んだ授業で得た知識が後にマッキントッシュの優れたグラフィック機能に生かされることになるのですが、何ともとんでもない苦学生です。
ジョブズはその生活が楽しかったと述べています。わずか6カ月とはいえカリキュラムに縛られた大学教育より、興味のある授業にだけもぐり込んで自由に知識を得ることが、本当に楽しかったのだと思います。
その後、彼は20歳で友人と2人、自宅のガレージでアップル社を創業し、今や伝説となったサクセスストーリーを駆け上がるわけです。大学での有名な15分間のスピーチは「Stay hungry, Stay foolish :ハングリーであれ、愚かであれ(小賢しくなるな)」という有名な言葉で締めくくられています。
人生の苦労を楽しむ、こう言ってしまえばあまりに逆説的で無理があります。私はもっと積極的な意味を彼のスピーチからくみ取りたいと思います。楽しくなければ、わざわざ苦労する意味がないということです。逆に楽しいからこそ、他の人から見れば、とても耐えれそうにないハードワークも気負うことなくこなしていけるし、人生に立ちはだかる壁をも楽々と超えていけるのだと思います。
徳洲会グループは約3万2000人の仲間とともに成長しています。徳洲会の医療・介護の現場が、職員にとって、やりがいと、それぞれの目標を達成していく楽しさに満ちた場所になるように心を砕くことが、病院の幹部と徳洲会グループ幹部の責務と考えています。
楽しい職場には、たくさんの仲間が集まってきます。皆で力を合わせ、お互いを認め合い、足りないところを補い合った結果として、今ある私たちの限界を超えていけるのです。患者さんの満足度と、職員の満足度は表裏一体のものであるはずです。優れた医療技術や看護ケアに対し患者さんが満足している反面で、職員の苦悩や不満が蔓延しているということがあり得るのでしょうか。医療・介護の現場を職員にとって、より楽しい職場に変えていく努力が、グループの価値を高めることにつながると信じています。
皆で頑張りましょう。