徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

鈴木 隆夫(すずきたかお)(一般社団法人徳洲会理事長(東京都))

直言 生命いのちだけは平等だ~

鈴木 隆夫(すずきたかお)

一般社団法人徳洲会理事長(東京都)

2017年(平成29年)11月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.1110

十分なサービスの提供は当たり前
患者さんが体験する価値を向上へ
“選ばれる病院”のみが生き残る時代

大学卒業後に米国で病理レジデントをしていた時の話です。

40歳代の患者さんが乳がんで乳房の全摘出手術を受けたのですが、7日前に行われたはずの生検の跡が、摘出された乳房には見つかりませんでした。

私は驚いて全乳房を1㎝間隔で切って調べましたが、どこにもありません。報告を受けた上司も驚愕してオペ室に駆け込み、反対側の乳房を見るように求めました。果たして反対側の乳房には生検の跡があったのです。結果として、その方が一瞬にして両乳房を失うという、決して起きてはいけない悲劇でした。

徳洲会グループは2011年に医療安全管理部会を立ち上げ、医療の質の向上を本格化。国際的な医療機能評価であるJCI認証取得に、いち早く取り組むなど、病院運営のあり方を再考する組織を発足させています。

前述した悲惨な事故や体験など「Never Event(決して起こしてはいけない事象)」を防止するためです。患者さんの取り違え、手術部位の間違い、術後合併症、投薬・輸血ミス、転倒などを防ぎ、病院のコンプライアンス(法令順守)やガバナンス(統治)を構築するためです。

16年には、さらに医療の標準化や質の底上げを図るため、QI(Quality Indicator)指標を導入しました。さらなる医療の質の向上に向けた取り組みをグループ各病院が共有し、世界のベストプラクティス(最良の実践法)と比較しながら、改善活動を実践しています。

そして今年、ピアレビューを開始。これは「専門家による技術評価システム」のことで、実践した医療を同じ領域の専門家が検討し、患者さんにとって安心・安全、妥当で価値があるものだったかを査定することです。

手術死亡率を病院ごとに公表 医療の質改善への有効性確認

海外では医療の質の評価を診療報酬に反映させる取り組みが始まっています。たとえば米ニューヨーク州では1989年から心臓バイパス手術の死亡率を病院ごと、外科医ごとに公表しています。見かけ上の治療率を上げるために重症患者さんを断ることがないよう「重症度補正」を行い、全病院に同じ重症度の患者さんが来院したと仮定し、死亡率を比較しています。

治療成績の悪い病院は、場合によっては治療成績の悪い外科医との契約を打ち切るなど、医療の質を上げる努力をせざるを得なくなるのです。治療成績の良い病院の診療報酬を増額するといった医療の質の評価を、診療報酬に直接リンクさせる方法も導入されています。「成果支払い」と呼ばれ、患者さんの健康状態の改善そのものや健康改善に直接結び付く行為が実施されたかを評価します。

こうした運動に参加した病院のスコアは年々改善され、成果支払いは医療の質の改善に有効なことが確認されました。現在では対象疾患・手術を拡大し、患者満足度をアウトカム(成果)指標に加えています。

今、世界の病院経営の潮流として、患者さんの体験に注目が集まっています。患者さんが病院に来られた時よりも、より幸せを感じて帰ってもらえるよう、そこに焦点を当てているのです。

12年に設立された国際医療成果測定協会(ICHOM)の取り組みは、医療成果を測定し比較することで、患者さんにとって本当に価値のある医療が提供されることを目指すものです。

患者さんに見えているものが病院の職員には見えていない

私たちは長い間、「患者さん中心の医療」を唱えてきました。しかし、それはあくまでも「治してあげる」、「救急を受け入れてあげる」という病院側の目線であり、患者さんの目線ではなかったことに気付かされました。

つまり、そこには“上から目線”があり、患者さんには見えているものが、職員には見えていなかったのです。

「病院はホテルじゃない」、「私たちは病人の面倒をみている。患者さんは病院に楽しみに来ているわけじゃない」。少なからずこう考えていませんか。

JCIやピアレビューなどへの対応は当然のこととして、患者さんが体験する価値をどう向上させていくかについて、新しい試みを始めたいのです。

医療に対する社会の見方は大きく変化しています。患者さんは病院から十分なサービスを提供されるのが当然と思っています。患者さんから選ばれる病院のみが生き残りを許されます。患者さん中心の医療に向けた終わりのない旅路へ、新しい一歩に向け、皆で頑張りましょう。

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