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直言

Chokugen

橋爪 慶人(はしづめけいと)(東大阪徳洲会病院院長)

直言 生命いのちだけは平等だ~

橋爪 慶人(はしづめけいと)

東大阪徳洲会病院院長

2017年(平成29年)5月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1083

2015年度の児童虐待相談数は10万件超
コミュニティ構築で地域を活性化すべき
見えない力が犯罪を未然に防いでいた時代へ

今年3月、千葉県我孫子(あびこ)市で世間を震撼(しんかん)させる事件が起こりました。同県松戸市に住む小学3年生の女児(当時9歳)が、遺体で見つかったのです。

容疑者は、彼女の自宅近くに住む男性で、女児が通う小学校の保護者会の元会長でした。

現場周辺の防犯カメラなどの映像分析と、現場の遺留物のDNA型から逮捕に結び付きました。一番信頼できるはずの「保護者会・地域の住人・見守り隊」という安心要素がそろった人物による犯行容疑に、誰を信用していいのかわからないという声が上がりました。

この事件で、今まで以上に近隣とのかかわりを避けようとする風潮が増長し、子どもの虐待予防のさまたげになることを私は危惧(きぐ)しています。

児童相談所(児相)が2015年度に児童虐待相談として対応した件数は、10万3286件と過去最多を更新しました。対前年度比では約1.2倍で、統計データのある90年度以降、毎年増加し、児童虐待防止法施行前の99年度に比べ約9倍にもなっています。

主な増加要因としては、児童が同居する家庭内での配偶者への暴力(面前ドメスティック・バイオレンス)があります。

家庭内暴力に介入した警察からの児相への通告が増加したこと、児童相談所全国共通ダイヤルの3桁化「189番」(いち・はや・く)や、児童虐待の事件報道などで、国民や関係機関の児童虐待に対する意識が高まったことなどが挙げられます。

過剰反応が想定外の結果を生み出す危険性あることも

以前、全国紙に「同じマンションの人に声をかけられても、対応しないように子どもに教えている」という、あるお母さんの投書が載っていました。じつは、私の住むマンションでも「子どもに『おはよう』などと声をかけないでください」というルールを実施してほしいと要望がありました。「知らない人には付いていかないように」と教えたい親からでした。

「知らない人」というネガティブリストの教え方には問題があります。「公園で犬の散歩をしているお兄ちゃん」は子どもにとって知らない人でしょうか。子どもへの教え方は「お父さんとお母さんだけ」というようなポジティブリストの考え方で教えるべきです。

私が子どもの頃は、地域のおばあちゃんやおじいちゃん、おばさん、おじさんたちが登校時や下校時に声をかけてくれたものです。そういった地域の見えない力が、犯罪を未然に防いでいたと思います。知らない人を無視するのと、地域が子どもたちを見守るのと、どちらのリスクが少ないでしょうか。私は前述のお母さんたちの心配もわかります。しかし、地域のセーフティネットを壊して自分たちの首を絞めているように映ります。

ニューヨークで起こった「9・11」事件後、米国内では多くの人々が飛行機から車の移動に切り替えました。統計的に安全な飛行機による移動から車の運転に切り替えた結果、事件後1年で1595人が車の事故で死亡したと推定されています。つまり、リスクが少ないと思って選んだものが、自動車事故死の増加という結果を生んだとも言えるのです。まさに過剰反応です。

児相への通告件数の増加は、日本社会での児童虐待が増えたことによるものではありません。そのほとんどは、これまで見過ごされてきた児童虐待が、学校関係者や医療関係者の関心の高まりにより、発見されたことによります。一般の方々の関心も向上し、通告されるようになったことが大きな要因です。この社会の意識の高まりは脆弱(ぜいじゃく)なものです。ちょっとしたことで、弱まります。

家族だけではなく近所などもかかわることで子ども救える

私は児童虐待危機介入チームの一員として児童虐待問題にかかわっていますが、虐待に至る多くの親は、意図して虐待をしたのではありません。周囲の人々からの子育てへの支援が少なく、経済的にも負荷が大きいお母さんが、自身のみによる子育てに疲れ、虐待に至るというケースが多く見られます。

家族だけでなく、ご近所さんなど周囲がもう少しかかわることで、子どもを救えるのです。「子ども食堂」のような取り組みをしているところもあり、一人ひとりがかかわることが、子どもを虐待から救い出すことになります。コミュニティの構築が地域を活性化させるのです。

皆で頑張りましょう。

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