2017年(平成29年)5月8日 月曜日 徳洲新聞 NO.1081 一面
医療講演や訪問活動
自院の強みアピール
徳洲会グループ
東京五輪に向けたインフラ需要増などによる建築費の高騰、社会保障費逼迫(ひっぱく)による医療費削減圧力など病院経営を取り巻く環境は厳しいが、安全で質の高い医療を提供し続けるには確固たる経営基盤が不可欠だ。徳洲会グループは老朽化した病院の建替えや医療機器更新などを推し進めるため、徹底したコスト削減や収入増を目指し弛(たゆ)まぬ努力を重ねている。今年度の重要施策のひとつであるマーケティング活動(医療講演、訪問活動など)に焦点を当て取り組みの一端を紹介する。
新築移転オープンへ4病院
市内の全自治会で説明会
羽生病院は院外医療講演と新病院の説明会をセットで開催
羽生総合病院(埼玉県)は2018年5月に新築移転オープン予定。新築移転に向け同院を運営する埼玉医療生活協同組合は、地鎮祭を行った昨年10月以降、院外医療講演の開催時に新病院のコンセプトなどもあわせて説明するなど、地域への広報活動を続けている。
「市民病院的な身近な医療機関として、日頃愛着をもっていただいているだけに、地域の方々からの新病院に対する期待はとても大きいです」(同組合の浅見洋顧問)
オープンまでに羽生市自治会連合会に加入する74の全自治会で、医療講演とセットの新病院説明会を開催したい意向。同組合の渡邉幸一係長は「4月下旬までに10カ所で説明会を終えました。1カ所につき30~50人ほどの方々に参加いただいています」と説明する。
さらに同院は地域連携や救急医療の強化のため、県内外26市町の消防署から救急隊員を招き、ERカンファレンス(救急に関する勉強会)を月1回開催し、顔の見える関係構築に尽力。また住民サービスとして医療講演参加者に対し、1コイン(500円)健診の動脈硬化検査を実施。今年からは骨密度検査も始めている。
ふるさと納税の返礼品に
和泉病院は地域医療連携推進の会で村上院長自ら新病院の概要を説明
徳洲会が指定管理者となってから4年目の
和泉市立病院(大阪府)は、18年4月に新築移転オープン予定。基幹型の臨床研修病院に新たに指定され、ちょうど新築移転の同月から初期研修医の受け入れが可能になる。新築移転に向け地域の病院や診療所との連携強化を目的として、4月22日に「和泉市地域医療連携推進の会」を初開催(和泉市医師会と共催)。総勢約100人が集まった。
村上城子院長は「地域の先生方と密に連携を取り、地域住民の方々の健康を守る砦(とりで)として今後も尽力したい」と挨拶。福岡正博総長は「診療科も増え、より充実した医療ができる予定です」とアピールした。泉谷良・同医師会長は「顔の見える関係を築き、地域完結型の医療を目指すことが大切です」と呼びかけた。
各診療科の紹介後、村上院長が新病院概要をプレゼンテーションした。河瀬吉雄副院長は終了後、「当院への期待の大きさを感じました」と手応えを感じていた。
櫛引健一事務長によるとオープンまでに再度同様の会を開き、周辺で人口が増加している地域を中心に、医療講演を積極的に開くなど広報活動を活発化する。友好関係にある地元商工会議所の会員企業に対し、指定管理移行以前は手薄だった医療講演や健診・人間ドックの案内に注力。また和泉市とタイアップし、同院での人間ドック受診を、同市へのふるさと納税の返礼品とするコースを設定するなど、ユニークな取り組みも行っている。
ドローンで期待感を誘う
沖永良部病院はドローンで撮影した航空写真をホームページに掲載(4 月4 日現在)
沖永良部徳洲会病院(鹿児島県)は今年12月に新築移転オープンする予定。新病院では患者さんの療養環境改善や待ち時間短縮を図る。
新病院完成に向け昨年7月10日から自院のホームページに新築移転情報の特設ページをオープン。7月14日の地鎮祭の様子や、病院職員がドローン(小型無人航空機)で撮影した建設現場の航空写真を、ほぼ1カ月おきに掲載している。西静哉事務長は「新病院ができていく様子がわかり、期待がふくらむと思います」と胸を張る。
週2回行う医療講演では最後に西事務長と吉田弘喜・総看護師長が新病院の特徴を説明したり、待合室に新病院の平面図を貼り出したりしている。患者さんから、いつ完成するのか聞かれることもあり、新病院の認知度が高まっていることを実感しているという。
9~10月を目安にチラシをつくり院内に設置。ケーブルテレビなどメディアも活用する予定だ。
診療科の特徴打ち出す
18年3月の新築移転オープンに向け準備を進めている大和徳洲会病院(神奈川県)。同院は工事開始後の15年3月以降、常勤医2人、病床数14床に規模を縮小して運営。
里憲明・事務部長は「近隣住民の皆さんにはご不便をおかけしていますが、来年の開院を心待ちにしている状況です。仮設運営で離れた患者さんも大勢いらっしゃいますので、これから新病院をしっかりアピールし、オープンしたら戻っていただくようにしていきたいです」と現状を分析する。
現在、広報活動を詰めており、来年2月以降に内覧会、説明会を予定。常勤医を増やすため診療科の特徴を打ち出す形で広報活動を展開していく考え。「継続して地域の医療機関や救急隊を訪問し、新病院の説明をする予定です。徳洲会の理念を守り、地域に応えられる病院づくりを目指します」(里・事務部長)。
月200件超の訪問目標
オリジナルのマグネットは訪問活動の必需品
松原徳洲会病院(大阪府)は昨年、マーケティング活動強化のため地域医療連携室の渉外担当を増員し3人体制にした。以前は1人体制で、ほぼ毎日ある医療講演に時間が割かれ、企業や医療機関を訪問できなかったが、増員で一つひとつの活動を丁寧に行えるようになった。
訪問活動で気を付けているのは〝顔の見える関係〟を築くこと。渡邉成喜主任は以前、同院の健康管理センターに勤務していた経験があり、その時にも企業訪問をしていた。打ち合わせや健診結果の送付など、電話や郵送ですむこともなるべく直接出向いて対応している。「顔を覚えてもらえると企業から別の企業を紹介してもらえることもあります」(渡邉主任)。
医療機関訪問でも同様だ。ただパンフレットを置いてくるだけではなく、地域の診療所であれば院長にアポイントを取って、1対1で面談し信頼関係を築いている。また、パンフレット、電話番号を記載したマグネットと『徳洲新聞』などを入れた封筒をあらかじめ用意し、すぐに携帯できるよう工夫している。
企業、医療機関合わせ月に200件以上の訪問が目標。泊孝俊主任は「院長の考えで地域連携には力を入れていますので、信頼関係を築けるよう何度も足を運びます」と意気込みを見せる。
取材日は松原市内の小学校の依頼で、「アナフィラキシー補助治療剤~エピペン~」をテーマに同院の櫻井嘉彦・小児科部長が講演。これも地道な訪問活動があったからこそ依頼されたものだ。
定期の医療講演のテーマは患者さんのニーズや時期を考えて医師が設定。血管年齢測定などのオプションを付け、飽きさせない工夫もしている。今後とも医療講演、訪問活動の両輪で、地域のニーズを掘り起こしていく。
救急受け入れ件数3倍に
医療講演は院内だけでなく公民館なども使用
佐野憲院長が
仙台徳洲会病院に異動したのは2015年のこと。当時、仙台病院はマーケティングに注力しておらず、依頼講演を受けていたものの医療講演は0件だった。
「佐野院長が赴任し、診療体制が変わり、それを地域の方々に伝えるため、なるべく多くの医師が病院の外に出て直接、住民の方々と触れ合い、病院への理解を深めてもらうため、医療講演を始めました。今では月25件行っています」(小松良司・事務次長)。
医療講演の全日程を医師のみで埋めることは難しいため、看護師やコメディカルにも依頼。新入職の医師には積極的に講演を依頼している。講演内容は、同院で行っている診療をアピールするもの。乳がんの治療を実施していることを知らない人が多く、チラシに「乳がんの診断と治療」と載せている。
「このような講演は、参加人数が少なくても継続する必要性がある」と佐野院長。講演数の増加とともに、救急搬送件数も大幅に増えた。その理由を佐野院長は「断らなければ、いつでも救急車は来ます」と断言する。事実、救急搬送は2年前の3倍に増えた。