徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

小林 修三(こばやししゅうぞう)(湘南鎌倉総合病院副院長 腎臓病総合医療センター長)

直言 生命いのちだけは平等だ~

小林 修三(こばやししゅうぞう)

湘南鎌倉総合病院副院長 腎臓病総合医療センター長

2016年(平成28年)12月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1061

サブサハラでの医療協力のなか
「Emiko」と名付けられた乳児
透析医療支援は2008年にスタート

「この瞬間にも命が失われています」などと表現される悲惨さは、実際に目の当たりにした人にしか理解できません。アフリカでは貧富の差がさらに拡大。首都に大きなビルが建ち並ぶほどの国もある一方、サブサハラと呼ばれるサハラ砂漠以南の国では、中心都市でも厳しい情勢があります。この地域の人口の40%以上を占める3億人以上の方々が、今なお1日1ドル以下の生活を送っています。

国民1人当たりの健康に関する支出は、日本は世界12位で年間4752ドル(2012年)ですが、サブサハラでは多くの国々が30ドル未満です。また、こうした国々では今なお、多くの患者さんが人工腎臓の恩恵にあずかれず命を失っています。とくに産後や敗血症からの急性腎不全では多くの若者の命が失われています。

物やお金だけではなく継続できる教育こそが真の支援

当グループのアフリカでの透析医療支援のはじまりは、2008年にモザンビークからの研修生を当院に受け入れた時からだと言えます。物やお金だけではなく、継続できる教育こそが真の支援です。

私たちの支援は、まず相手国スタッフが来院して1カ月の研修を行い、私たちも現地に赴き治療をon site(現地)で教えるシステムをとっています。

日本はODA(政府開発援助)の支出額では世界4位ですが、貢献度という指標(環境・安全保障など)では先進国など27カ国中最下位です。

いわゆる〝魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える〟ことが大切です。

タンザニアの首都ドドマでのことです。透析医療を開始するため、現地の医師は6人の慢性腎不全患者さんをリストアップしていました。しかし、私たちが到着した日、時すでに遅く、4人は亡くなっていました。残った患者さんの1人も、呼吸困難な状況でした。

歓迎の宴をと言われたものの、この話を車中で聞いていた当院の日髙寿美(すみ)・血液浄化部長は、ただちに透析治療開始を告げました。現地の多くの医師や看護師が見守るなか、夕食も摂らずに治療を開始。ほどなくして患者さんの呼吸状態も安定し、その後みるみる回復しました。時刻はすでに夜半過ぎでした。

モザンビークでの経験です。帝王切開後、出血が止まらず子宮全摘出術を受け、その後、無尿と昏睡状態が5日間続いた患者さんに緊急透析を開始。2日目には目が開き、意識が戻り、尿も出始めました。3週間後には透析治療も不要になり完全に回復しました。カメルーンでも中絶後の感染が原因で急性腎不全になった若い女性を同様に救命しました。

タンザニアでは、産後出血による感染やハーブの摂取による肝障害で多臓器不全となった母親がいました。私たちは母親に対して連日連夜の持続的透析治療を行いました。同時に生まれたばかりの赤ちゃんには、NICU(新生児集中治療室)の経験がある当院の塩野恵美子看護師が現地スタッフを指導しながら、自身もシリンジ(注射筒)で白湯(さゆ)をあげるなど数日間精いっぱいの看護をしてくれました。その後、母親は無事に回復、赤ちゃんも母乳を飲めるほどになりました。母親は助けられたことに感謝し、この赤ちゃんに「Emiko」と名付けたそうです。

14年までに救った命453人 今後は移植医療なども推進へ

国際腎臓学会は、昨年ようやく「0by25(25年までに急性腎不全で亡くなる患者さんをゼロに)」運動を展開し始めました。

私たちがアフリカへの支援を始めた当初、私のまわりにいる多くの学会関係者から「やっても無駄ですよ。続けられませんよ」と冷たい言葉を何度も浴びせかけられました。

しかし、わずかな一歩でも、しっかりと教育して細々とでも実行できる環境があれば助けられる命はあるはずです。その一歩を信じ、約10年継続してきました。この間、14カ国に151台の透析器械を寄贈。14年3月現在、救った命は453人に上り、継続が可能であることを証明しました。直接支援したスタッフはもとより、徳洲会という大きなヒューマニティーあふれる組織があったからこそです。同時に留守を預かるスタッフも、皆で協力したから成し遂げられたことだと言えます。

今後は移植医療も含めてタンザニアでの腎臓病総合治療の推進にかかわることになっています。皆で頑張りましょう。

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