徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

直言 いのちだけは平等だ~

寺田 康(てらだやすし)

庄内余目病院院長

2017年(平成29年)2月13日 月曜日 徳洲新聞 NO.1069

地域医療を一本の命綱で支える危険性
この綱につかまれない方々が大勢いる
当院と関連4施設は密に連携し網の目に

庄内も冬になりました。

雪のある晩、地元の居酒屋で常連客たちと「今年の冬は厳しいか?」という話題で大いに盛り上がりました。自分は「今年の冬は、庄内名物の地吹雪がなく物足りない」と思っているのですが、地元の人たちは新参者の私に当地の冬をどうこう言われたくないといったところでしょうか。酌(く)み交(か)わす酒が、大いに進みました。肴(さかな)は雪の下に埋められ甘味が増した野菜と獲れたての珍味、タラです。

その居酒屋からの帰り道です。常連客と一緒に千鳥足でヒョロヒョロと雪道を歩いていました。その時です。自分には何の変哲もない雪道の途中で、常連客の足がピタッと止まりました。「先生、そこはテロテロでゅ~!(そこは道路が凍って、テカテカと光っているから滑るぞ!)」。改めて雪国の生活が骨身に染(し)み付いた人たちの、雪に対する五感の鋭さにとても感動しました。

離島・へき地であっても最善の医療提供を目指す

病院の外来では、雪が降ると高齢の患者さんが俄然(がぜん)、元気になります。あたかも自分の出番とばかりに、雪除(よ)けをするのです。除雪(雪を取り除く)という言葉の中にも、庄内地方では雪除け(雪をどける)、雪投げ(雪を投げ捨てる)、雪掘り、雪落しなどがあり、この順に雪が深くなります。患者さんが使う言葉によって、患者さん宅周辺の積雪量が、おおよそ見当がつくようになりました。

雪のある日の昼過ぎ、84歳男性が低体温で救急搬送されて来ました。患者さんは独居で身寄りがなく、週3回のデイサービスを利用していました。たまたまデイサービスを利用する日で、電話をかけてもつながらないため担当者が自宅を訪問し、家の玄関の上がり框(かまち)で倒れているところを発見されたのです。

初診時、体温29℃、意識はなく、徐脈(じょみゃく)(脈拍数が1分間に60以下)でした。低体温を引き起こす原疾患もなく、環境による低体温と診断し復温しました。まだ低体温の影響が検査結果に残っていますが、困ったことはほぼ自立していた日常活動度が低下し、かなりの介助が必要になってしまったことです。

今、この患者さんは退院後に過ごす場所がありません。身寄りもなく介助を要する状態では、雪に埋もれた自宅は冷たく家の主の帰宅を拒絶しています。この患者さんに必要なのは、特効薬の内服を指示した1枚の処方箋(せん)でも、最新の医療機器でもありません。平均在院日数を指標とする医療制度も、在宅へ退院を促(うなが)す医療政策も、この患者さんを救えません。冷酷で残忍なほど厳しい冬の庄内地方で、離島・へき地であっても、最善の医療提供を目指す徳洲会のまさに踏ん張りどころです。

自宅でさえ酷寒で体温が低下凍死寸前になり得る庄内地方

去る2月1日、日本海低気圧の吹き荒れる夜、庄内余目病院と関連4介護老人保健施設(老健の余目徳洲苑、徳田山、ほのか、あかね)の病院四役、施設長、看護部長、事務長が庄内町内の割烹(かっぽう)の2階で一堂に会しました。新年会を兼ねた懇親会と情報交換会、そして自分にとっては大好きな宴会です。

日々の診療で連携は取っているつもりでしたが、お互いの顔が見られ、それぞれの立場での理解が進んだ良い機会でした。とくに、高齢であっても矍鑠(かくしゃく)として意気軒高な老健施設長の先生方には、臨床医の大先輩として頭が下がる思いでした。

庄内地方でも、公立病院を頂点とした医療体制の再構築が進んでいます。地域医療を一本の命綱で支えるのは危険です。自宅であっても寒さで低体温になり、凍死寸前になる厳しい冬の庄内地方では、この命綱につかまることのできない人たちが大勢います。

少なくとも庄内余目病院と関連4老健施設は密に連携して、それぞれの施設が可能な限りの医療を提供し、不可能な部分を補う網の目のような医療体制を供給して、この庄内の地域医療に貢献していく所存です。

日本海は夕日がきれいです。以前、天皇陛下が山形行幸の際に宿泊された日本海を一望できる温泉宿のフロントには「本日の日の入り時間」が掲示されています。日が昇るのとは対照的に、日の入り、日が沈む、落日と、日本海の夕暮れには感傷的な雰囲気が漂います。

庄内地方にも必ず春は来ますが、日本海から朝日が昇ることは絶対にありません。

じっくりと腰を据(す)えて、皆で頑張りましょう。

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