介護系施設

ユマニチュードはフランスで考案されたケア手法のひとつ。主に高齢者や認知症を有する方に効果があるとされている。①見つめる、②話しかける、③触れる、④立つ(寝たきりにさせない)――の4つの行為を基本に、150に及ぶ具体的な技術を規定。 たとえば①では「正面から見る」、「目線を同じ高さにする」、「一定の長さ(秒数)で見つめる」など。②では「大きな声や攻撃的な声のトーンで話さない」、「否定的な内容を避け、前向きな話を心がける」、「『どうしました?』と具体的に尋ねる」など。 ③では「可能な限りどちらかの手で相手に触れる」、「触れる面は広く」、「優しくゆっくりとなでるように」、「手の平を上にして、相手から手を載せてくれるのを待つ」など。④では「身体的機能が保たれているか、本人に立って歩きたいという意志があるかを確認し、慎重に取り組む」など。これらを組み合わせて総合的にケアを行う。 岸和田徳洲苑(定員:入所100人、通所60人)がユマニチュードに取り組むようになったのは、2014年。徳洲会看護部介護部会担当責任者の吉﨑和子・鹿児島徳洲会病院副院長が会議などでユマニチュードを紹介したところ、岸和田徳洲苑の丸山・総看護師長は「当施設の特長にしたい」と考え、すぐに実施に向けた準備に着手した。 まずケアの中心的な役割を務める丸山・総看護師長と原田さとみ看護師長が解説書やDVDでユマニチュードを学習。その後、ふたりが一緒にかかわる入所者さんのうち2人を対象に実施した。ともに認知症を有する90歳代女性で要介護5。それまでは看護・介護への抵抗や暴言、ひとり言などを認めたが、ユマニチュードに基づくケアを実践したところ、少しずつ表情や行動が変化した。 「とくに大きく変わったのは会話。それまでは反応がなかったり、体を横に向けられたりしていましたが、少しずつ反応が返ってくるようになりました。ある日、せわしなく動いている私に対し『暑いかい』と、うちわをあおぐ仕草をしてくれたことがあります」と原田・看護師長。 丸山・総看護師長も「居室を出る際に、『また来ますね』と挨拶したら入所者さんから『きっと、きっと、きっと来てね』という言葉が返ってきたのです。涙が出そうになりました」と効果を強調する。 日を追うごとに独語や暴言など、いわゆるBPSD(認知症の周辺症状)が軽減し、表情も穏やかになっていったという。 「入所者さんが“自分のことを見てくれている”と安心・信頼してくれたから変わったのだと思います。今までは入所者さんのことを大切に思っていても、行動できちんと伝えていませんでした」と丸山・総看護師長。 続けて「たとえば、握手をするにしても自分の手の平を見せるようにして、下から差し出せば、自然と相手から手を載せてくれます。それを手首や手を上からつかめば“罰を受ける”というようにマイナスイメージを抱く人もいます。細かいことですが、今までそこに気づきませんでした」。 その後、施設内で研修を行い、ユマニチュードを実践できるスタッフを育成。現在、原田・看護師長、丸山・総看護師長以外に主任1人、副主任4人の計7人が実施し、1人当たり3人ずつ担当、計21人の入所者さんにユマニチュードを実践し、多くのケースで行動に落ち着きが見られたり、表情に明るさが戻ったりしているという。 「治療ではないので、認知症そのものが改善したわけではありません。ユマニチュードを通じてスタッフのアプローチが変わり、入所者さんとの関係が、より良くなったことが要因だと思っています」と、丸山・総看護師長は分析する。