湘南藤沢徳洲会病院
認知症とせん妄の違い
せん妄は自分がいる場所や時間がわからなくなったり(見当識障害)、注意力や思考力が低下したり(注意障害)、幻視・錯視などの症状が短期間のうちに現れる病態ですが、実際に家族がこのような状態になると、なかには認知症と考えてしまう方も少なくありません。しかし、せん妄と認知症は異なる特徴を有し、原因や予防法などの考え方も異なります。湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)認知症せん妄サポートチーム専任看護師の浅岡恭世・看護副主任が、認知症とせん妄の違いやそれぞれの特徴などを解説します。。

認知症は一度獲得した知的能力や思考・判断能力が低下したり、今はいつなのか、ここがどこなのかといったことや、周りの人が誰かわからなくなる見当識障害、記憶障害などが現れたりする病態です。これらは脳の萎縮など器質的変化により出現する症状です。
認知症は疾患名ではなく、脳血管障害などを発症することで現れる認知障害が、一般的に認知症と言われているのです。
一方、せん妄は身体疾患や体の状態、薬剤の服用、手術など身体に大きな変化が起きた時に、軽度から中等度の意識障害や見当識障害、幻視・錯視、睡眠・覚醒リズム障害などが現れる状態を指します。自分の状況を理解できなかったり、壁のしみが人の顔に見えたり、影が小動物に見えたりし、不安から不眠や興奮状態になることがあります。入院中には、このようなせん妄を起こす患者さんがいらっしゃいます。
せん妄を起こした人を家族が見て認知症になったと感じることがありますが、認知症とせん妄は異なるものです(表)。
せん妄は短期間のうちに発症し、認知症はゆっくりと時間をかけ進行します。また、せん妄は1日のうちにふだんどおりの状態に戻ったり興奮したりと変動します。とくに夜間せん妄と言われるものがあり、夕方から夜間にかけ興奮状態になることがしばしばあります。原因疾患や環境の改善で症状は治まります。

せん妄を引き起こす因子は準備因子、促進因子、直接因子の3つです。準備因子(患者さんがもともともっている因子)は高齢や認知症、脳血管疾患の既往があること、アルコールをふだんから多く摂取していることです。促進因子は環境の変化や痛み、不眠、かゆみなど不快な状態です。直接因子は薬剤の影響や病気の増悪などです。
予防法も異なります。たとえばアルツハイマー型認知症は糖尿病があると2倍罹患(りかん)しやすいという統計があります。血管性認知症は脳梗塞や脳出血によって引き起こされます。そのため生活習慣病の予防は血管性認知症の予防につながります。慢性的なストレスも大敵です。適切な栄養、運動、知的活動、社会参加が大切です。
せん妄の予防法としては、生活習慣病の予防やアルコールを控えることです。入院中の患者さんであれば、痛みやかゆみなど不快な状況があったり、ふだんなじみのない人たちに囲まれ不安を感じ混乱しやすい状態ですので、入院環境を整えることが重要です。必要であれば眼鏡や補聴器など補助具を用意してください。家族と一緒に映っている写真やペットの写真など愛着のあるものが身近にあるだけで安心感を得られます。不安を取り除くことができれば、せん妄を防いだり、せん妄から早期に回復したりすることにつながります。
→徳洲新聞1277号掲載