札幌南徳洲会病院

札幌南徳洲会病院の大江亜由美・看護副主任と吉川美香看護師はPOOマスターの資格を取得した。これは「うんこ文化センター」が認定する民間資格で、排便ケアのスペシャリスト。0歳から100歳を超える高齢者まで、誰もが気持ち良く排便できるようにするのが目的だ。大江副主任と吉川看護師は、患者さんの便の異常の原因を探り、薬だけに頼らない排便ケアに注力している。

排便ケアのスペシャリスト

病院や施設にいる高齢の方は排便がスムーズにできないことが多く、下剤を服用したり、便が3~4日なければ浣腸をしたりする。しかし、こうした治療により腹痛や腹満感が出たり軟便が続いたりと、患者さんが苦痛を感じることもある。また、薬に頼りすぎると、その人自身の排泄(はいせつ)力が弱まることもある。

POOマスターは便の異常に対し、排便のメカニズムやその人の排便習慣を観察し、適切なケアを提供する。気持ち良い排便ができると、自然と食欲が湧き栄養状態も改善、排泄のための一連の動作ができるようになることで、ADL(日常生活動作)が向上、おむつや下剤の量を減らせるなどメリットがある。

排便コントロールは、①本人の今までの生活リズムや食生活について聞く(病歴、排便状態、他症状、身体所見)、②ブリストルスケール(便の形状を7つに分類)を用い便の形状や量、使用した下剤内容などを「排便日誌」として毎日記録する(2週間程度)、③排便状態を知り、アセスメント(評価)し、食事改善やマッサージ、下剤のコントロールをする――という手順を踏む。

大江副主任と吉川看護師は、勤務するそれぞれの病棟で活動している。大江副主任は病棟内で排便ケアの勉強会を実施、スタッフに重要性を説き、患者さんへの聞き取りや排便日誌の記入などを指導。加えて、排泄介助のスペシャリストと一緒に患者さんの排便ケアにあたっている。

大江副主任は「寝たきりの患者さん、がん終末期の患者さんは運動ができず、腸の動きも悪くなりますが、できれば食事やマッサージなど人の手の温もりによって、自然な排便ができるようになってほしいと思います。排便ケアは、その人の歴史や生活を知ることが第一歩。人と人との付き合いを大切にしていきたいです」と力を込める。

ALSの患者さんから「排便が気持ち良い」

一方、吉川看護師が勤務する病棟では、便秘を訴える筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんに対し、排便ケアを実施。聞き取りにより、ファイバー(食物繊維)が足りないことがわかり、医師、薬剤師と相談のうえ、下剤を処方する前にファイバーを追加、腸内環境を整えることで排便を促した。また、背の低い高齢者用に、排便姿勢を維持するための踏み台を手づくりする考えだ。

吉川看護師は「これまでは便が3~4日なければ、浣腸をするのが当たり前だと考えられてきました。今は排便ケアの知識が身に付いたので、疑問に感じるケースには、別の提案ができるようになりましたし、スタッフの相談に乗りながら一緒に考えることができるようになりました。患者さんにも気軽に相談してもらえるようになりたいです」と強調する。

今後は全職員に啓発するため、eラーニングを準備中。委員会として活動することも視野に入れている。工藤昭子・看護部長は大江副主任と吉川看護師の活動に対し、「地道に一つひとつ事例を重ねており、頼もしく感じます。ALSの患者さんにも〝排便が気持ち良い〟という感覚が残っていたのを見て、うれしく感じました。このような患者さんが、ひとりでも増えていけば良いと思います」と期待している。

→徳洲新聞1277号掲載

 

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