福岡徳洲会病院
福岡徳洲会病院は2017年度の地域交流研修会を開いた。同会は医療従事者を対象に、文字どおり地域交流と勉強会を兼ねたイベントで、10年前から年複数回開催。今回は医療従事者のなかでも、初めてMSW(医療ソーシャルワーカー)を対象に実施した。2日に分け、初日は講義を中心とし、約3週間後に実施した2日目は演習を中心にプログラムを構成。テーマ設定が好評を博し、初日は100人超、2日目は60人超が参加した。なかには、同院の筑紫医療圏域外から訪れる人や、退院支援専従看護師などMSW以外の専門職も受講していた。
荒木師長「共通認識もてる場を」

福岡病院が地域交流研修会を開始したのは、県から地域医療支援病院に承認された2008年。地域医療支援病院は1997年に制度化された医療機関の機能別区分のひとつで、紹介患者に対する医療の提供や救急医療の提供と同様、役割のひとつに「医療従事者に対する研修の実施」が掲げられている。
従来、同院は看護師やコメディカルを対象に地域交流研修会を実施してきたが、地域包括ケアシステムの推進などにより、地域連携が重要になっている背景などをふまえ、初めてMSWを対象に開催。MSWにとって大きな悩みとして挙がっていた「福祉支援と記録」をテーマにした。
企画・運営を中心的に進めた患者サポート室の荒木伴宏・看護師長は「通常は当院が主体で内容を決めていますが、1年くらい前から関係を築いている地域のMSWと一緒にプログラムも含め考えました」と説明。
続けて、「カルテ開示や診療報酬の面から、MSWの記録は医師などと同じくらい重要です。あらゆる職種のなかで恐らく一番丁寧かつ大量に書くことが求められると思います。ただ、それだけ時間がかかるわけで、簡潔明瞭に記録を残す方法に多くのMSWが悩んでいるのがわかりました」
研修は2日に分け、それぞれ講義と演習を中心にプログラムを編成。初日は福岡病院で行い、103人が参加した。

前半は「入門・基礎知識編」と題し福岡県立大学人間社会学部社会福祉学科の本郷秀和教授が講義。記録そのものの意義や目的など基礎的内容を説明。後半は「医療分野編」とし、同学部の畑香理助教が医療での記録のもつ役割などを解説した。
約3週間後に開いた2日目は、徳洲会グループの特別養護老人ホーム薔薇の樹苑で実施。週末の夜にもかかわらず、63人が参加した。初日とは対照的に、この日は現場でMSWを務める早良病院の中川美幸・地域連携室・医療連携室室長を講師に招聘(しょうへい)。グループワークを中心とした講義を行った。
グループワークでは、まず自施設の特徴について紹介し合い、その後、配布された記録例の改善ポイントを協議。最後に中川室長が経験談を交えながら、時間や場所、具体性など記録を残す時の要諦を示した。とくに紙カルテの場合は記録者のサインを忘れないことなどを強調した。
ロールプレイも行い、患者役とMSW役が面談する場面を設定。参加者は、その様子を記録に落とし込んだ。中川室長は面談と記録は密接に関係していることを指摘し、目的などを明らかにしておくことを勧めた。また、クレーム対応では通常の記録以上に具体的かつ丁寧に書くことを心がける点を強調。文章の表現にも言及し、主観的な内容ではなく事実のみを記すよう注意を促した。
さらに望ましいポイントとして、「その後どのように院内、部署内で情報共有をしたのか、再発防止など今後の対応を協議したかも書くと良いでしょう」と示した。

講義はあっという間に終了。約3時間に及んだが、最後まで会場は熱気を帯びていた。参加者からも「記録に関する勉強会がなかなかないので、参加して本当に良かったです。地域で共通理解の場があるのは大切だと感じました」(竹下太・誠愛リハビリテーション病院MSW)、「記録が長すぎるのではないかと悩んでいたので参加しました。一人部署で、ふだん相談する相手がいないため、同じ立場の方が集まる場があるのは良かったです」(吉田綾・自衛隊福岡病院MSW)といった声が寄せられた。
荒木師長は「今回49施設から参加の申し込みをいただきました。別の医療圏の施設からもあり、ニーズの高さを感じました」と振り返り、記録に関する課題を「様式や方式自体がいろいろあるうえ、病院ごとに異なる。そもそも教育課程で方針が違うため、指導したくても指導するためのベースがない」と指摘。
「意識レベルを含め、皆が共通の認識をもつきっかけとなり、研修会本来の目的である質の向上につながればいいです」と期待、今後も継続していく意向を明かした。
→徳洲新聞1122号掲載