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徳田虎雄対談集
ゲスト:藤田 三保子(ふじたみほこ)
1952年山口県生まれ。NHKテレビ小説「鳩子の海」でデビュー。膠原病のため女優を一時休業。現在は画家・俳人としても活動

「私を変えた結婚と膠原病の試練」--藤田
「己を磨くために天は病を与える」--徳田
徳田 膠原(こうげん)病で、長く女優業を休んでおられたとか。
藤田 ええ、15年くらいは専念できませんでしたね。
徳田 膠原病にはネフローゼ型とか、リウマチ型とかいろいろありますが、藤田さんの場合は?
藤田 全身性エリテマトーデスといいまして、高タンパク尿がきっかけで分かったんですが、自覚症状がないんです。だから、最初はバンパン仕事してたんですよ。過労を避けなさいとか、風邪を引かないように気をつけなさい、くらいで特別な注意もないですし。
徳田 膠原病はまだ治療法が確立されていないからね。ただ、副腎皮質ホルモンを使ったでしょう、ステロイドを。あれでムーンフェイスになりませんでしたか。
藤田 そうなんですよ。顔がまん丸になって女優として仕事にならないから、薬を飲むのをやめてしまったんです.そしたら関節炎が出て入院。これはこたえました。こうやって、太って減量してをくり返してたら、仕事なんてできない。もう女優としてダメかもしれない、と絶望的になりました。
徳田 どのくらい太ったの。
藤田 身長168センチで、一番やせてた時は体重50キロだったのが、72キロまで。実は発病した後で妊娠した時、先生に「出産はやめたはうがいい」と言われたんです。社会復帰できなくなるかもしれないし、子どもにある種の障害が出る可能性も健常者の25倍とかで。夢に出るほど悩みましたが、どうしても欲しくて産んだんです。
徳田 お子さんは無事で?
藤田 2500グラムぎりぎりでしたが、障害もなく、1カ月で退院しました。
徳田 それは何よりだ。
藤田 ただその時の治療で72キロまで太ったんです。着るものがなくなったけど、買うのも悔しいでしょ。それで小太りの主人のTシャツとGパンを着て一緒に歩いてたら、外人さんに「双子デースカ?」って言われたの。ショックで(笑)。必死で60キロまで減量しました。やせる本って何百冊も出てるけど、何やってもダメですね。私は運動制限があるので、結局は食べないことしかない。つらかったです。
徳田 先日、鈴木その子さんのパーティがあってスピーチしたんですけど、やせて美しくなりたいという人がいっぱい来てましたよ。
藤田 女優の場合は死活問題ですから。たとえどんな原因であろうと、少しでも太ると自己管理ができてないと言われる。しかもテレビは2割方太って見えるので、なおさらやせてないといけないんです。でも、中年になってくるとガリガリもよくないし、そんなにしゃかりきにならなくていいじゃない、って受容できるまで20年かかりました。
徳田 人間は、病気をした方が深くなると思うんです。だから、天はあなたにもう少し自分を磨いてもらおうと、病を与えたんじゃないかと。
藤田 それはありますね。結核で短命だった正岡子規に、病気こそが今の自分を作りたもうた、という意味の俳句があるんです.ああ、私もこれだと思いました。
徳田 病気の前後では、ずいぶん変わりましたか。
藤田 病気だけじゃなく、結婚前後、病気前後があって、まず結婚前の私って何ていうか、狼の化身みたいでしたね.弱肉強食の世界で生きているから、とにかく猪突猛進。今振り返ってみると、狼かハブかって感じで。
徳田 貪欲(どんよく)だったと。
藤田 たとえば、ハブにお前は悪いと言っても「どこが悪い、生きるためにやってんだ」ってものでしょう。
それと同じ。でも結婚相手が子持ちだったり、結婚後すぐ病気が分かったりで、人生って自分の思い通りにいかないものだと分かってきた。それを人に言うと「あなた今ごろ分かったの」って言われました。
徳田 それだけ必死にやってた、ってことでしょうね。
藤田 そういうことが分かってきてから、絵や俳句という方向性が出てきたんです。私、昔は俳句って年配の方がやるものと思ってたんですよ。だから若くして亡くなった夏目雅子さんが、たくさん俳句を残しているのを意外に思ってたんです。でも、実は俳句を詠めない自分の方が役者としておかしいんじゃないか、と思うようになったの。人の痛みを理解するとか、自分の心をのぞき込むことを積極的にやる。そうすれば、俳句って自然にできるものだって、病気して分かりました。
徳田 やはり病気は、人生でも一番のカルチャーショックだからね。今はきちんと健診はしてますか? 胃カメラ、大腸ファイパー
藤田 それはしてません。
徳田 だめだなあ。
藤田 胃カメラは何度もやってて、もうコリゴリなの。
徳田 エリテマトーデスだから20年生きてこられたけど、ガンはそうはいかないんですよ。死ぬか生きるかでなく、女優をやれるかやれないかだから、まだ甘いんだなあ。ご主人は?
藤田 全然してません。
徳田 年1回はするのが文明人だと伝えてください。
藤田 野蛮人なんです(笑)。
徳田 ハハハ、いや笑い事じゃなくて。
藤田 NHKに勤めていたんですが、毎年保健の人に、早く検査してくれって追い回されてたそうです。缶ピース1日3缶のヘビースモーカーで、甘い物食べ放題コーラがぶ飲みで、歯は3本だけ。よく生きてると思うけど、風邪もひかないの。
徳田 幸せな人だね。やりたい放題で。
藤田 何を言ってもきかないので、あきらめました。
徳田 だめですよ。まず、あなたが検査をして、ご主人を連れて行かないと。
藤田 そうですねえ。
徳田 自覚がないというか、まだまだショックが足りないなあ(笑)。

「全力投球で追求すれば、真実がある」--徳田
「心が倦んでいるとき出会った絵の世界」--藤田
徳田 藤田さんが描かれた絵を拝見しましたよ。私は絵は素人だけど、ものすごくいいですね。どのくらやっておられるの。
藤田 4年目になります。芸能界って常に画面に出ていないと、すぐ死んだんじゃないか、と噂される世界なんですね。だから病気で十数年も引いていたら、役を決める時に名前が出なくなるんです。女優の仕事が少なくなって、別の形で表現活動をしたくなった時、ちょうど絵をやっている方と付き合いができて、描き始めたんです。
徳田 たった4年で、これだけのものになるとはねえ。
藤田 ありがとうございます。私、縁があって、故郷の山口県防府市で個展をやったんですよ。その時「こちら美術の恩師」と言われて「えっ?」っと思ったら、高校のとき美術クラブに入ってたようなんです。1年ほどしかやってないと思いますが、卒業アルバムを見たら、その先生と写ってるの。ピックリしました(笑)。
徳田 じゃあ、かつての夢を実現したわけだ。ただね、女優でも同じだと思うんです。表現の基本は感性があるかどうかだから。それは事業家だって、政治家だって一緒だと僕は思っている。
藤田 女優と絵も違いはなくて、女優はいつもきれいにして背筋を伸ばしてなきゃいけないけど、絵描きスッピンで、背中丸めてやるってことくらいです。
徳田 感性のある人は、まず本物かニセ物か違いが分かります。そして本物に感激する。花を見て、ああ誰が贈ってくれたのかなじゃなく、きれいな花だなあと感激しないと描けない。
藤田 そうですね。4月ごろになると、柔らかい黄緑がたくさん萌(も)えてきますよね。それを見ると、うわ−絵が描けたらどんなにいいだろう、もしも画家だったら、どんなふうにこの景色が見えているんだろか、といつも思っていたんです。
徳田 それがまさしく感性そのもの。そして感性というのは、違いが分かって感激して、その上で行動しないと感性ではないんですよ。
藤田 私も病気になってからは、ミノムシみたいに殻の中に入ってました。でも動いていないとたまらない性格なので、気分が倦(う)んでくるんです。何かしなくちゃダメ、と苦しんでいる時期に絵に出会った。
徳田 そういうチャンスをパッとつかむ、そして行動する。これが大事だね。女優より、絵の方が天職じゃないかという気がするな。
藤田 それはうれしいような、きついような(笑)。
徳田 というのは女優の場合、気が向かなくても仕事が来たらやらざるを得ないし、絶好調でも仕事がないとできない。でも、絵は自分のペースでできるでしょ。
藤田 そうですね。
徳田 天が与えてくれた良い才を、どう生かすかが勝負じゃないでしょうか。
藤田 ただ私、今揺れ動いているんですよ。先日、朗読の会をプロデュースしたんですが、その一方で個展を控えているので絵も描かなければいけない。で、朗読の方は招待状の住所書きから雑用がたくさんあって、絵がどっかに行っちゃうんです。でも、やっぱり描かなきゃと思って絵筆を握ると、今度は朗読のことが気になるんです。あぶはち取らずになりそうで、1本に絞るべきかなとも思うんですが、女優にしたってそれだけでは食べていけないし。
徳田 いや、それはみんなやるべきだな。そうしたら、こっちもあっちもよくなります。
藤田 そうですか?
徳田 僕は病院づくりの土地選びでは不動産屋顔負けだし、何千億円も借金する資金のやりくりには、職員1万5000人の先頭に立って指揮をとってる。さらに海外にも病院をつくるため、今ブルガリアの銀行も買収している。あれもこれも、全部自分でやってます。
藤田 すごいですね。
徳田 つまり、そうやって広くやることが、すべて医療に戻り、さらに深くなる。でも撤退すると死に近づく、そんな感じがしますね。人はあなたに、女優だけでなく絵まで描いて、と言うかもしれないけど、そうじやない。一つに8時間使うなら、二つなら16時間やればいい。睡眠だけ8時間とればいいんですよ。
藤田 はあ。先生の大学受験の話を本で読みましたが、努力ってこういうことをいうんだ、って思いましたね。
徳田 個展はいつですか?
藤田 6月26日からです。銀座のギャラリーで。
徳田 じゃあ、それまでは寝ても覚めても絵のことだてこけ考えて。揺れ動くって事は、まだ余裕があるんですよ。追い込まれ方が足りない。
藤田 なるほどそうですね。
徳田 女性はって言い方はよくないけど、でも女性は能力ギリギリまで出したらそれでいい、と思って楽してる人が多いね。
藤田 耳が痛いなあ(笑)。
徳田 それを突き破って、真実は極限を少し超えたところにあるんです。僕なんか布団に入ってからも、頭の中で沖縄から北海道まで病院を一つ一つ点検するんです。寝食を忘れて全力投球できるか否かが、プロかそうでないかの違いだから。
藤田 そうですね。
徳田 それとコツは、自分にしかできないことだけをするんです。炊事や洗濯はできるだけカットする。
藤田 娘を泣かせて。
徳田 娘にさせるんですよ。作れないなら、コンビニで弁当でもパンでも買ってきてと。私の分も一緒にお願いって、それでいいの。
藤田 そうします。
徳田 それでお母さんのありがたみも分かるし、絵を描く母の後ろ姿で子は育つよ。
藤田 先生の言葉を胸に頑張ります、私。
徳田 いい絵をたくさん描いてください。個展を楽しみにしてますよ。
<終わり>