| 徳洲新聞2007年(平成19年)9/10 月曜日 NO.586 |
フィリピン保健省が検討する外国人患者の腎臓移植に関する新制度案では、スラム住民など貧困層のドナー保護を謳うが、「政府の外貨獲得の利権確保」との見方もある。新制度の見通しはどうなのか。

フィリピンの国立腎臓・移植研究所
マニラ首都圏パシグ市の腎臓財団。待合室には腎臓病治療を待つ患者が並び、別室では透析が行われていた。同財団は1974年に民間病院の中に設立され、その後独立。腎臓病治療や透析を行ってきたが、2004年から保健省の委託を受け、移植のためのドナー(臓器提供者)登録や事前検査、アフターケアを行う。
国立腎臓・移植研究所など10病院が、同財団に登録されたドナーからの腎臓提供で、3年間で約100例の移植手術を実施。患者はフィリピン人で45万ペソ(約110万円)、外国人で1万2000ドル(約140万円)を財団に寄付し、ドナーは休業手当10万ペソ(約25万円)と小さな商売などを始める資金として7万5000ペソ(約19万円)の支援を受けられるほか、10年間の健康診断が受診でき、生命保険にも加入することができる。
保健省が検討している新制度案は、この腎臓財団のシステムを全フィリピンに広げようとするもの。同財団を中心に、ドナー登録、謝礼、外国人患者からの寄付を一括管理。外国人患者は、ドナーの生活支援費や術後の検診費のほか、フィリピン人の移植費用1人分を財団に「寄付」する。
フィリピンの年間腎臓移植数は公式には約600例。だが、実数ははるかに多い。保健省が一括管理に乗り出した背景には、実質的な臓器売買である非血縁者間の生体腎移植の急増がある。05年には移植総数630例のうち約460例と、5年前の5倍以上になった。
フィリピンには、日本の臓器移植法のような臓器売買を取り締まる法律はない。保健省のガイドラインでは売買を認めていないものの、法的拘束力を持たない。悪質なブローカーは取り締まれるが、逮捕例は数えるほど。非血縁者間の制限もない。
腎臓財団のコンスタンシオ・レオン事務局長は「ドナーを悪質なブローカーから保護し、手術後の健康管理をする上で新制度は有効。貧しくて移植手術が受けられないフィリピン人患者も救える」と期待する。
保健省と新制度案を進める国立腎臓・移植研究所のエンリケ・オナ所長は「新制度は臓器売買ではない。患者は財団に寄付をし、ドナーは感謝の贈り物を受ける。腎臓の対価ではない。罰則を作るためにも、ガイドラインではなく法制化が必要」と説明する。
だが、「国が事実上、臓器売買を認めることになる」、「売買は人体の商品化」など反対の声は根強い。さらに、独自に財団を持ち、ドナー登録システムがある病院からも「一括管理」に強い異論が出ている。医師や病院側には、外貨獲得の利権を政府に奪われてしまう危機感がある。
新制度に反対する病院職員は「政府は今、病院をまったく統制できていないのに、一括管理しようとすること自体に無理がある。病院施設も全然違うし、移植医によって腕も使う薬も違う。どうやって管理するのか」と制度成立には懐疑的だ。
また、「貧しいフィリピン人患者が移植手術を受けられる」と保健省は説明するが、外国人患者が払うフィリピン人の移植費用には薬代が含まれない。そのため、「結局貧しい人は手術を受けられない」との指摘もある。

エンリケ・オナ所長
フィリピンには「外国人への手術は、全移植手術の10%に限る」という外国人枠があるが最近、この枠を超えた医師や病院に厳しい警告が出されている。実際に医師免許停止になった移植医や、移植手術や外国人受け入れを見合わせる病院も出てきた。
この外国人枠見直しを含め、新制度案にはさまざまな意見が出ており、先行きは混沌としている。
一方、6月にドイツのエッセンで開催された「第3回国際生体臓器移植シンポジウム」では、アーサー・メイタス米移植外科学会会長がドナーへの報酬を制度化してはどうかと提案、大きな議論を呼んだ。最終的な採決では、約200人ほどいた参加者のうち8割ほどが賛意を表明したという。
フィリピン政府が新制度案を打ち出したことで、日本の患者にも影響が出ている。制度が成立し、事実上「臓器売買」が公に認められるようになると、日本の臓器移植法に抵触する可能性があり、患者は手術を受けにくくなるという見方もある。フィリピンで移植手術を受けたある男性は、「日本は禁止するばかりで、ドナーを増やす努力をしていない」と憤っていた。(了)















